インドのカースト制度とは?進出・経営への影響や他のメリットについても

「インドのカースト制度とはなにか」
「インド進出にカースト制度は関係あるのか」

このような悩みを持っている方は多いでしょう。かつてインドにはカースト制度があり、現在は規制されています。しかしインド国民の生活には深く根付いており、インドに進出・経営するにはカースト制度について知らなければいけません。

本記事では、以下の内容について解説します。

  • インドのカースト制度とは
  • カースト制度による進出のデメリット2つ
  • カースト制度のデメリットを超えるメリット3つ

とくにインド進出を検討されている方にとっては、有益な記事になりますので、ぜひ最後までお読みください。

【制度の知識】インドのカースト制度とは

カースト制度とは、インドの社会で根付いている身分制度です。インドで信仰されている宗教である「ヒンズー教」の教えによるもので、5つの身分に分けられる「ヴァルナ」と血縁関係などで結束している「ジャーティ」があります。

カースト制度には5つの身分がある

カースト制度には5つの身分に分けられます。以下の表にまとめました。

身分特徴
バラモンカーストの頂点で、宗教的な権力を持っている
クシャトリア王族や貴族に属する民族で、政治や法律に関わっている
ヴァイシャ商人に属する市民階級で、経済力がある
シュードラ市民階級にあたり、農業や製造業の一般労働者である
ダリッド「不可触民」とも呼ばれ、身分階級に属せず、動物の加工や汚物処理を担当している(※)
※不可触民とは「触ると穢れる人間」と言われており、他の階級民族は近づかない存在です。

身分によってそれぞれ特徴や役割が違います。

カースト制度の歴史はヒンズー教の聖典から始まる

カースト制度の始まりはヒンズー教の聖典「リグ・ヴェーダ」からです。「リグ・ヴェーダ」では、神に捧げる「プルシャ賛歌」が描かれており、そこにはヴァルナが表現されています。

その後インドでは、紀元前5世紀に仏教、15世紀にはイスラム教が広がり、ヒンズー教のカースト制度を否定しますが、ヒンズー教はカースト制度を続けます。

そしてインドがイギリスの植民地にされていた時代は、イギリスはカースト制度を不条理に悪用し、国の統制を図りました。

インドのカースト制度は法規制されたが、暮らしには残っている

インドのカースト制度は法律によって規制されています。1950年1月に制定されたインド憲法によって規制されており、不可触民のダリッドの廃止も同時に施行されました。

しかし、カースト制度は昔から深く根付いているので、インド国民の生活には依然として残っています。

とくにダリットにいた国民(以下、元ダリット民)はカースト上位にいた国民から暴行を受けています。上位カーストにいた国民が理不尽な理由で元ダリット民の結婚式を襲撃し、暴行事件を起こしました。

このような事件から、法規制はされたものの、生活にはまだ根強く残っています。

参照:BBC NEWS JAPAN|殺されたのは、身分の高い人の前で食事をしたから……インドに根強く残るカースト制度

インドのカースト制度が進出に与える2つのデメリット

インドのカースト制度が進出に与えるデメリットは以下の2つです。

  1. カースト制度による労使紛争
  2. 同じカースト内でのトラブル

順番に解説します。

1. カースト制度による労使紛争

カースト制度が原因で、労働者の不当労働やストライキなどの労使紛争が起こる可能性があります。カースト上位だった使用者は労働者が自分より下位のカーストであると、粗末な扱いになるかもしれません。それに対して労働者は労使紛争を起こしてしまうでしょう。その結果、経営困難になり会社に大きな損害が出るおそれがあります。

また労使紛争がエスカレートすると、被害は広がります。2012年7月にマルチ・スズキでストライキが起こりました。労働条件の決裂により労使紛争が発生し、製造工場の火災にまで発展します。工場は約1ヶ月間稼働できない状況になり、大きな損害になってしまいました。

カースト制度による労使紛争は会社に大きな影響を与えてしまうひとつのデメリットです。

参照1:独立行政法人労働政策研究・研修機構|諸国の日系企業をとりまく投資環境の変化と労使関係:インド 労使関係の課題

参照2:独立行政法人労働政策研究・研修機構|マルチ・スズキ社の2012年の暴動に関する判決

2. 同じカースト内でのトラブル

同じカースト内でのトラブルも起こりやすいと考えられています。とくに同じカースト内にいた者との上下関係に注意しましょう。

上司と部下の上下関係は会社で雇用する以上、必要な組織体制です。しかし「同カーストだったのに、指図されるのはおかしい」と思ってしまう場合があります。

また同カースト内に身内がいることは多いので、親族の上下関係が持ち込まれて、組織が崩れるかもしれません。最終的にはカースト内のトラブルによって辞職されると、人手不足になるおそれがあります。

同じカースト内の労働者と組織化する場合は、慎重に決めていくと良いでしょう。

参照:独立行政法人労働政策研究・研修機構|諸国の日系企業をとりまく投資環境の変化と労使関係:インド 労使関係の課題

インドのカースト制度問題を超える進出のメリット3つ

インドのカースト制度問題を超える進出のメリットは以下の3つです。

  1. 急速な経済成長
  2. 人口増加による働き手の豊富さ
  3. 特定分野における補助金などの支援活動

それぞれ詳しく解説します。

1. 急速な経済成長

インド経済は急速に成長しています。インド国民の消費拡大とモディ政権の改革が上手く機能しているからです。

ロイターによると、2023年7月〜9月にかけてGDP(国内総生産)は前の同時期よりも7.6%も増加したという調査結果があります。

さらにインド経済の規模は2023年の3兆4,000億円から2031年には6兆7000億に到達し、さらなる経済成長が予測されています。

インドの経済成長は企業の成長にもつながるので、進出後の成長速度は非常に早いでしょう。

参照1:ロイター|インドGDP、7─9月期は7.6%増 予想を大幅に上回る
参照2:ロイター|インド経済、31年まで平均6.7%成長へ=S&P

2. 人口増加による働き手の豊富さ

インドの人口増加による働き手の豊富さもメリットのひとつです。インドの総人口は中国を抜いて世界1位になりました。さらに労働人口は2023年では68.2%、2040年は68.3%とほとんど変わっていません。

将来的にも働き手は潤沢であるので、長い間労働者が不足することはないでしょう。

また子どもの教育にも力を入れており、優秀な若者を育てるためのプログラムや制度を設けています。

政府は地域のECCEセンターで、保健・栄養・教育を含む子どもの統合的発達サービスを提供中です。

インドは人口だけでなく、優秀な若者を輩出している国であるといえます。

参照1:PopulationPyramid.net|人口インド 2023

参照2:PopulationPyramid.net|人口インド 2040
参照3:CHILD RESEARCH NET|【インド】 インドにおける幼児教育・保育の現状(前編)

3. 特定分野における補助金などの支援活動

特定の分野で条件を満たせば、補助金などの支援を活用できます。特定の分野は以下のとおりです。

  • 自動車
  • 電子機器
  • 医療機器の研究・開発

また新規製造会社には軽減税率制度も設けています。具体的には法人税が通常22%〜30%が15%に軽減可能です。

中央政府と州政府では優遇措置が異なるため、利益最大化の計画を練っていくのがおすすめです。

参照:ジェトロ|インド中央政府および州政府による投資優遇措置ならびに優遇税制(2023年11月)

まとめ:インドのカースト制度は根強さを理解し、最大利益が出る進出を試みよう

今回の記事では以下の内容を解説しました。

  • インドのカースト制度は法規制されているが、依然として現存
  • デメリットは労使紛争やカースト内の上下関係
  • メリットは優秀な若者の人口増加と優遇措置

カースト制度に法規制はされたものの、インド国民の生活には残っています。雇用するにあたって、カースト制度の名残を理解し、労働者をどのように配置するか気をつけなければなりません。また優遇措置の条件を確認し、インド進出でフル活用することをおすすめします。

「インド進出に興味がある」という方はこの記事を参考にしてみてください。