インドでは歴史ある寺院や建造物、独自のグルメが観光のメインになっていますが、そのなかでも世界一高い「統一の像」に近年注目が集まっています。
インドに馴染みがない人にとっては、統一の像は誰がモデルになっているのか、なぜ作られたのかわからないでしょう。
そこで今回は、統一の像の解説と周辺の観光スポット、インドにあるその他の像について解説します。
統一の像のモデルは「サルダール・バラブバーイー・パテル」
インドの統一の像は、インド独立後の国家統一に大きく貢献した政治家、サルダール・バラブバーイー・パテルをモデルにしています。
パテルはインド独立運動で重要な役割を果たし、1947年に組閣された第1次ネルー内閣で初代副首相・内相を務めた人物です。
特に550以上の藩王国をインド連邦に統合する際に中心的な役割を果たしました。彼の努力によって、今日のインドが一つの国家として存在する基礎が築かれました。
パテルはまた「鉄の人」とも称され、その強い意志と決断力でも知られています。インドの独立と統一のために妥協を許さず、国家の分裂を防ぐためにあらゆる手段を講じました。
統一の像はそんなパテルの功績を称え、インド全土に彼の偉業を伝えるために建設されました。
インドのビスマルクと呼ばれたサルダール・バラブバーイー・パテル
サルダール・バラブバーイー・パテルは、その国家統合への貢献から「インドのビスマルク」とも呼ばれています。
この称号は、19世紀にドイツの統一を成し遂げたオットー・フォン・ビスマルクにちなんだものです。
ビスマルクが分裂したドイツ諸邦を統一したように、パテルは複雑だったインド独立の状況で、多数の藩王国を統一することに成功しました。
パテルの方法は軍事力に頼らず、外交交渉や説得によるもので、その平和的な手段が高く評価されました。パテルのこの功績によって、インド国内外で「国家の統一者」として尊敬を集めています。
また、パテルのリーダーシップとビジョンは、現代インドにおいても多くの政治家や国民に影響を与え続けています。
統一の像は高さ182メートルの世界一高い銅像
統一の像は高さ182メートルで、現在世界で最も高い銅像です。この高さは、インドがこのモニュメントにどれほどの重要性を置いているかを象徴しています。
自由の女神像が93メートルあるのに対して、約2倍に相当する統一の像はインド国内外の観光客を引きつける大きな要因となっています。
2018年にインドのグジャラート州に完成したこの像は、パテルの遺産を後世に伝えるための象徴として設計されました。
像の設計と建設はインド政府が主導し、現代の技術と伝統的なインド建築の要素が融合されています。
また、統一の像周辺は現在も観光開発が進められており、インドの文化や歴史を深く理解できる観光スポットとしても注目を集めています。
統一の像の建設は単なる記念碑に留まらず、インドの歴史と文化に対する誇りを象徴するものです。
インドが統一の像を建造した背景
インドが統一の像を建造した背景には、サルダール・バラブバーイー・パテルの功績を称え、彼の遺産を後世に伝える強い意図があります。
パテルはインドが1947年に独立した際、550以上あった藩王国が独自の統治権を持つ状態からインド連邦に統合するという難題に取り組みました。
彼は政治的手腕と強い意志をもってインド統一を成功させたことから、「インドの統一者」として尊敬されています。
パテルのリーダーシップは、インドの地理的および文化的多様性を保ちながらも、1つの国家としてまとまるための基盤を築いたものでした。
彼の努力なしには、今日のインドの姿はなかったでしょう。
インド国内外にパテルの功績を伝え続け、現代インドが直面する統一と多様性の課題に対する一つの象徴として機能させる狙いがありました。
また、統一の像の建設には、地域経済の振興や観光資源の開発といった現実的な側面も含まれています。統一の像が立つグジャラート州ケヴァディヤは、もともと観光地としての認知度が低い地域でした。
しかし、このプロジェクトによって多くの観光客を引き寄せ、地域経済の活性化を目指しています。
インドの歴史と文化を象徴するこの巨大な像は、インドの誇りを内外に示す重要なモニュメントとなっています。インド独立の背景について詳しく知りたい人は、以下の記事を参照してください。
参照:インドがイギリスから独立するまでの歴史|ラーマやガンディーの活動も解説
インドで統一の像をめぐって起きている抗議活動
インドの統一の像は、国家統一と平和の象徴になっている一方で、地元住民や一部の団体から強い抗議を受けています。
この抗議活動は、特にグジャラート州ケヴァディヤの農民や先住民が、自分たちの土地が像の建設に利用されたにもかかわらず、適切な補償を受けていないと主張していることに端を発しています。
現地では土地の補償をめぐる抗議が起きている
ケヴァディヤ地域での統一の像の建設に際し、農民や先住民は、土地が収用される際に適切な補償が行われていないと強く反発しています。
ケヴァディヤは伝統的に先住民が居住してきた地域で、土地は単なる資産ではなく文化的、精神的な意味を持つものです。
しかし、像の建設のために、広大な土地が政府によって取り上げられてしまいました。
多くの住民が農業を営んで生活しているため、土地の喪失は先住民の生活基盤を脅かすもので、抗議活動が頻繁に発生する原因となっています。
政府は、プロジェクトが地域経済を活性化させ、観光業を促進することで地域住民にも利益をもたらすと主張していますが、住民たちはそれに納得していません。
特に、土地を失った人々の間では、金銭的な補償が不十分であるという声が強く、代替地の提供や生活再建に向けた支援が欠如していると訴えています。
この統一の像をめぐる補償問題は、政府と地元住民の間で依然として解決できておらず、抗議活動が継続しています。
統一の像はムスリムの迫害の象徴といわれている
統一の像はサルダール・バラブバーイー・パテルを称えるものです。
しかし、一部のムスリムや少数派のコミュニティからは、インド国内の宗教的・民族的な緊張を象徴するものとして批判されています。
パテルはインド統一に貢献した英雄とされていますが、彼の政策がヒンドゥー教徒中心の国家形成を促進したと見る人がいるためです。
そのため、この像はヒンドゥー教の優越性を強調し、特にムスリムへの抑圧を正当化する象徴と見なされています。
この像をめぐる議論は、インド国内の宗教的・民族的な対立をさらに深める要因ともなっています。
特に、ムスリムのコミュニティは、政府がヒンドゥー教徒の偉大なリーダーを称えるために巨額の資金を投じていると考えました。
同時に、ムスリムが抱える社会的・経済的問題には十分な対応がなされていないと感じています。統一の像はムスリムにとって宗教的・民族的分断の象徴とされ、受け入れがたい存在となっています。
日本から統一の像までのアクセス
日本からインドの統一の像を訪れるためには、インドのニューデリーやムンバイへの直行便を利用します。
インドの主要空港に到着したあとは、ヴァドーダラー空港への国内線に乗り換えてください。
ヴァドーダラー空港から統一の像があるケヴァディヤまで100キロ以上の道のりがありますが、アクセス手段は複数あります。
まず、ヴァドーダラー空港から統一の像が立つケヴァディヤまでタクシーやレンタカーを利用する場合、通常は約2〜3時間かかります。
より経済的な移動手段を考慮する場合、バスも利用可能です。ヴァドーダラー空港からケヴァディヤ行きのバスが運行しているので、のんびりインドの風景を楽しみながら目的地まで移動できます。
このアクセス方法で日本から統一の像を訪問できるので、インドの歴史と文化を深く理解する機会となるでしょう。
統一の像付近の観光スポット
- フラワーバレー
- ザルヴァニ滝
これからインド旅行を計画する人のために、それぞれの観光スポットの特徴を解説します。
フラワーバレー
フラワーバレーは、統一の像近辺で人気の高い自然観光スポットです。四季折々の花々が咲き誇るこの庭園は、観光客にとって視覚的な癒しを提供しています。
フラワーバレーは訪れる時期によって異なる種類の花々を楽しめますが、特に春と秋の観光がおすすめです。
園内にはベンチや休憩所も設置されているので、家族連れやカップルがリラックスしながら時間を過ごせます。フラワーバレーは自然の中で心を落ち着け、リフレッシュするのに最適な場所です。
ザルヴァニ滝
ザルヴァニ滝は、統一の像の観光客にとって必見のスポットです。この壮大な滝は、特に自然愛好者にとって魅力的な場所で、訪れる人々に大自然の力強さと美しさを体感させてくれます。
ザルヴァニ滝の周囲は豊かな緑に囲まれており、ハイキングやピクニックを楽しむのに最適です。滝の水量が多い時期には、迫力ある水しぶきと轟音が訪れる人々を圧倒します。
ザルヴァニ滝は滝壺の近くまで降りられるエリアもあり、間近で滝を楽しめます。このエリアは写真撮影スポットとしても有名で、自然の美しさを捉えたい観光客にとっては理想的な場所です。
インドにある統一の像以外の巨大像
インドには、統一の像以外にも以下のような歴史的・文化的に重要な巨大像が存在しています。
- シヴァージー像
- ラーマーヌジャ像
- ティルヴァルバル像
- ハヌマーン像
それぞれの像は、インドの異なる地域や時代を代表する人物や神々を称えたものです。
シヴァージー像
シヴァージー像は、17世紀にマラーター王国を築いた英雄チャトラパティ・シヴァージーを記念する像で、ムンバイ近郊に建設中です。
この像は、高さ210メートルに達する予定で、完成すれば統一の像の記録を塗りかえて世界で最も高い像となる見込みです。
シヴァージーはムガル帝国に対抗し、独立したマラーター王国を築いたことで知られています。像の建造はシヴァージーの勇気や戦略、そして国家建設の業績を称えるために建設されています。
シヴァージー像は、インドの誇りと独立精神を象徴するモニュメントとして新しい観光名所になるでしょう。
ラーマーヌジャ像
南インドのハイデラバードに位置するラーマーヌジャ像は、インドの哲学者ラーマーヌジャを記念するものです。
ラーマーヌジャは11世紀に活躍し、ビシュヌ派の哲学を広めた人物として有名です。この像は信仰、哲学、そして知恵の象徴として建設されました。
ラーマーヌジャの教えは、現代においても多くの人々に影響を与えているため、ラーマーヌジャの像は精神的指導者としての彼の役割を尊重する形で建立されました。
ティルヴァルバル像
タミル・ナードゥ州のカニャークマリにあるティルヴァルバル像は、古代タミル文学の詩人で、哲学者だったティルヴァルバルを称えたものです。
ティルヴァルバル像は、文学と道徳の象徴として建設されました。
ティルヴァルバルは著作「ティルックラル」で知られています。これは人生、倫理、政治に関する古典的な教訓を集めたもので、現在もタミル文化において高く評価されています。
像は海を見下ろす位置にあり、周囲の景観と調和した壮大な姿が特徴です。
ハヌマーン像
ニューデリーにあるハヌマーン像は、ハヌマーン寺院の中にある巨大像です。ハヌマーンは猿神で知恵や富、幸運の神としてだけではなく、障害を取り除く存在として広く崇拝されています。
インド2大叙事詩のひとつ『ラーマーヤナ』では中心的な役割を担い、現代でも人気のある神様です。
ハヌマーン寺院はテーマパークのようなアクティビティもあるので、家族で観光するのもおすすめの観光スポットです。
インドの統一の像は世界一の高さが魅力の建造物
統一の像は、インド独立の中心人物として活躍した「サルダール・バラブバーイー・パテル」をモデルにした像です。高さは182メートルで現在世界一の高さを誇っています。
インドには統一の像だけではなく、他にも壮大な巨大像が複数存在します。
特にムンバイ近郊で建設中のシヴァージー像は、完成すれば高さ210メートルで世界一高い像となる予定です。
巨大像の建造は、経済成長が著しいインドの国力の証明にもつながり、新しい観光スポットとして現地の経済効果が見込めます。
インドにはタージ・マハルやアグラ城のような歴史的建造物が数多くありますが、これからインド旅行を予定している人は、巨大像の観光も検討してみましょう。
インドのタージ・マハルの歴史や見どころについては、以下の記事で詳しく解説しています。