「インドの主要産業を知っていますか?」
そう聞かれるとIT産業や農業など、いくつかの産業が候補に出てくるでしょう。インドが急速に経済成長している背景には、新しい産業が次々と登場し、発展しているという要因があります。
今回は、インドの主要産業を中心に、GDP成長率や海外への主な輸出品を解説していきます。
インドの経済成長と産業構造
インドは近年、顕著な経済成長を遂げており、その勢いは多くの専門家たちから高く評価されています。国のGDPの増加に伴い1次産業、2次産業、3次産業などの産業構造も大きく変化しています。
- GDPに占める産業の割合
- 経済成長率の傾向と予測
- 産業構造の変化と未来予想図
まずは、インドの経済成長と産業構造について解説していきます。
GDPに占める産業の割合
インドのGDPは、1次産業、2次産業、3次産業という3つのセクターによって大きく形成されています。その中でも、2021年3月時点の3次産業の構成比率は53.1%と過半数に達しました。
3次産業で最も構成比率が高いのは金融・不動産・専門サービスで22.4%、次いで商業・ホテル・運輸・通信・放送で15.9%でした。近年経済成長が著しいインドを支えているのは、IT産業などの専門サービスです。
インドのITやカスタマーサービスといった高付加価値のサービス産業は、国内市場だけではなく先進国を中心とした海外からの需要も増加しています。実際に、インドのバンガロールにはAmazonやGoogle、日本のIT企業がオフィスを構えています。
このような新しい産業の急成長はインドのGDP構成比にも明確に反映されており、今後もサービス業中心の経済構造が続くことが予想されます。
参照:JBIC国際協力銀行「第3章経済概況」
参照:【進出必見!】インドのバンガロールを解説!進出をおすすめする理由も紹介
経済成長率の傾向と予測
近年、インドの経済成長率は上昇傾向にあります。政府の経済改革や外国からの投資増加が要因とされており、国内市場の活性化もその一助となっています。
世界銀行は、インドの2024年度の経済成長は7.5%になると発表しました。
引用:THE WORLD BANK「Despite Strong Growth, South Asia Remains Vulnerable to Shocks」
2025年度は6.6%になると予測されている通り、今後もインド経済は発展していくと思われています。これは、人口の増加と若年層の割合が高いことに起因し、労働力としてのポテンシャルが極めて高いとされています。
また、IT産業の発展や工業化の推進も、経済成長を支える重要な要素であるといえるでしょう。
産業構造の変化と未来予想図
インド経済の今後は、産業構造の持続的な変化が続くと予測されています。デジタル化の進展に伴い、テクノロジーを中心とした新しい産業の形成が進んでいるためです。
特に、人口の多さを活かしたデータ処理サービスや、スタートアップ企業の増加が顕著です。これらの動きは、インド経済全体を支える土台となっています。
また、製造業の分野でも、モディ首相の掲げる「メイク・イン・インディア」政策などが奏功し、国内外からの投資が増加しています。
生産性が低く貧困率が高いと問題になっていた農業も改革が進められており、持続可能で効率的な農業へと転換が必要です。インドの産業構造はこれからも革新的な変化を遂げ、新たな成長機会を創出していくでしょう。
参照:インド経済について日本企業進出の観点から解説!今後のインド経済の発展は?
インドの主要な輸出品
2022年時点のインドの主要な輸出品を紹介します。
品目 | 輸出金額 |
石油製品 | 94,915 |
宝石・宝飾品 | 39,183 |
機械・器具 | 33,260 |
医薬品・精製化学品 | 25,250 |
鉄金属・非鉄金属 | 24,592 |
輸送機器 | 24,301 |
有機・無機農業化学品 | 19,412 |
織物用糸・布地 | 16,895 |
鉄・鋼鉄 | 15,363 |
電子通信機器 | 11,096 |
石油と聞くと中東をイメージする人が多いかもしれませんが、インドも石油の産出国として重要な役割を担っています。その他、宝石や機械、布地や通信機器などの輸出も多くなっています。
【インドの主要産業1】IT産業の急成長
現代インド経済を発展させている要因といえば、IT産業の急成長です。このIT産業の急成長は新たな技術革新を常に生み出し、インドの生活様式やビジネスモデルに大きな変革をもたらしています。
- IT・ソフトウェア産業と企業誘致
- IT人材供給国と海外進出
- 「デジタル・インディア」の未来像
インターネットの普及やモバイルデバイスの進化が世界中で進む中、インドのIT産業が注目を集める理由を解説します。
IT・ソフトウェア産業と企業誘致
インドは世界的に見ても、IT・ソフトウェア産業の発展が著しい国の1つです。高度な技術力と英語を話す人材が豊富なことから、グローバル市場でもその競争力は非常に高まっています。
特にバンガロールやハイデラバードなどの都市は、世界のIT企業の集積地として知られ、国を問わずに多くのエンジニアが集まっています。アメリカのAppleはハイデラバードに2,500万ドルを投じて、4,500人規模のR&Dセンターを設立しました。
IT人材供給国と海外進出
IT産業の成長と共に、専門的な技術を持つIT人材の需要は高まっています。これに応えるため、インドではITの教育プログラムやカリキュラムの改善が進められています。
日本でも慢性的なIT人材が不足していますが、急速なITの普及によって世界中でIT人材不足は深刻です。ジェトロ(日本貿易振興機構)では、インド工科大学ハイデラバード校で日本企業への就職説明会を行うなど、インドのIT人材の争奪戦が始まっています。
若い労働力が豊富でIT大国として急成長しているインドもIT人材の育成に力を入れており、海外へ優秀な人材を派遣することで国際的なプロジェクトへの参画や新たな市場開拓の機会を創出しようと考えています。
グローバルな視野を持つインドのIT専門家は、今後さらに重要な役割を担っていくでしょう。
参照:ジェトロ(日本貿易振興機構)「IT大国インドの人材採用に挑む、インド工科大学での日系企業説明会」
「デジタル・インディア」の未来像
「デジタル・インディア」はインド政府が推進する国家プロジェクトで、情報技術を使って社会のあらゆる領域をデジタル化し、インドを世界のIT大国に変革させることを目的としています。この動きはインターネット接続の普及による教育の機会拡大や、行政手続きの効率化など、国民生活の改善にも直結します。
さらに、デジタル化によって新しいビジネスチャンスが生まれ、AmazonやAppleなどの世界的IT企業を次々と誘致することを実現しました。インドから世界へ、新たなIT技術やサービスが発信される時代もそう遠くないかもしれません。
【インドの主要産業2】サービス業の拡大と経済への効果
IT産業と並んで急成長しているサービス業は新たな雇用を次々に創出し、インド経済全体に好循環をもたらしています。消費者のニーズが多様化することで、様々なサービスが生まれ、経済規模が大きくなっているためです。
- サービス業の多様化
- 観光業の発展とポテンシャル
インドのサービス業がもたらす経済効果について解説します。
サービス業の多様化
サービス業が多様化する背景には消費者の個々の好みやニーズが詳細化し、カスタマイズされたサービスへの要求が高まっていることが挙げられます。例えば、飲食業界では健康志向や個性を重んじるトレンドが反映され、オーガニック料理やエスニック料理が人気です。
また、美容・健康サービスではパーソナルトレーニングやメンタルケアなど、顧客一人ひとりの要望に合わせたサービスが提供されています。このように、サービス業の多様化は新たなビジネス機会を生み出し、雇用創出や消費の刺激につながっています。
観光業の発展とポテンシャル
インドは歴史ある建造物が多く残っていて、観光業も地域経済の活性化に重要な役割を担っています。国内外からの観光客を惹きつけるために地域独自の魅力を前面に押し出したブランディングが必要とされ、それにより地域の特色ある文化や歴史、産業に価値を見出されています。
具体的には、タージ・マハルやアグラ城、マイソール宮殿やチェンナイのマリーナビーチなどが観光地として人気です。こうした地域資源の活用によって、観光業は高いポテンシャルを持ち、長期的な成長が期待されています。
また、国際イベントの開催やインバウンド観光の強化など、観光産業が引き受ける役割は増すばかりです。その一方で、インドではスリや置き引き、レイプなどの犯罪も多いので、観光客が安全に滞在できる環境構築が求められています。
参照:インドのタージ・マハルはいつ建てられた?歴史と魅力や見どころを解説
参照:【最新版】インドのおすすめ観光スポット15選!注意点やベストシーズンも紹介
【インドの主要産業3】農業の特徴と課題
インドは世界第2位の農業大国なので、農業が国家経済に占める役割も大きくなっています。インドは都市部よりも農村部の人口が多く、その半数以上は農業を営んでいます。
しかし、天候への依存度の高さや貧困による新技術への対応の遅れなどが、農業の発展を阻んでいるのも事実です。
- 農業のインド経済への貢献度
- インドの主要農産物
- 農業技術の発展と課題
農村部の教育の機会不足などの社会問題も重なり、インドの農業は今、大きな転換期を迎えています。
農業のインド経済への貢献度
日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表した「インド農業資機材市場調査」によると、2017年の農業の寄与度は国内総生産(GDP)の17.3%を占めました。労働人口の54.6%が農業従事者だったこともあり、インド経済において農業は主要産業の1つです。
インドは昔から豊かな自然環境に支えられ、多種多様な作物が生産されてきました。イギリス植民地時代も綿花、綿糸、綿布、アヘン、米などを輸出する重要拠点になっています。
現在もインド総人口の過半数が農業に従事しています。しかし、近年では大規模災害による農地の劣化や市場の構造問題で農業従事者の貧困率が高いことが問題になり、農業生産性の向上が急務になっています。
参照:ジェトロ(日本貿易振興機構)「インド農業資機材市場調査」
参照:インドがイギリスから独立するまでの歴史|ラーマやガンディーの活動も解説
インドの主要農産物
農林水産省の「インドの農林水産業概況」によると、農業分野でのインド最大の農業生産品はさとうきびでした。2021年の生産量は40,540万トンです。
その他の主要農産物についても表にまとめました。
生産品 | 生産量 |
さとうきび | 40,540 |
米 | 19,543 |
小麦 | 10,959 |
ばれいしょ | 5,423 |
バナナ | 3,306 |
とうもろこし | 3,165 |
マンゴー・グアバ・マンゴスチン | 2,497 |
茶 | 548 |
生乳(牛) | 10,830 |
生乳(水牛) | 9,438 |
インドでは、穀物だけではなく温暖な気候を利用してフルーツの生産も盛んです。
農業技術の発展と課題
技術革新は、インド農業の収穫量と効率を飛躍的に向上させています。灌漑システムの改善、遺伝子組み換え作物の導入、農業機械の普及など、さまざまな進歩が見られます。
しかし、こうした最新技術は一般的にコストが高く、すべての農家がこれらを採用できるわけではありません。中小規模の農家が多いインドでは、現在でも手作業や生産効率の低い作物を生産している農家が多いのが問題です。
教育と技術普及の面での課題もあり、このギャップを埋めるために政府や民間セクターの支援が不可欠です。農業技術の平等な普及は、インド農業の持続可能な成長にとって重要な課題です。
参照:インドの農業は儲からない?農家の貧困状況と政府の政策について解説
【インドの主要産業4】製造業とグローバル競争力
製造業の発展は、インドの経済成長にとって重要なセクターです。グローバル競争力を高めるためには技術革新、コスト削減、品質向上などが求められます。
- インド製造業の主要品目
- メイク・イン・インディア政策の影響
- 国際市場でのインドの立ち位置
インドの製造業は、先進国の企業誘致をいかに獲得できるかに注力しています。
インド製造業の主要品目
インドの製造業は輸出でも大きな役割を担っていて、繊維製品、化学製品、金属工業製品、などの生産が盛んです。特に繊維業界は古くからインドの代表的な輸出品目であり、全世界にインドの職人技を認めさせる原動力となっています。
また、近年ではIT関連の電子製品や医薬品の製造も増加しており、これらの分野でも国際競争力を強化しています。ジェトロによると、2021年度の電子機器の輸出は156億6,000万ドルでしたが、2022年には235億7,200万ドルと50.5%も増加しています。
電子機器の輸出額のうち、半分弱を携帯電話が占めているのも特筆点です。
参照:ジェトロ(日本貿易振興機構)「スマートフォンなどの電子機器の輸出が前年度比5割増」
メイク・イン・インディア政策の影響
2014年に始まったモディ首相の「メイク・イン・インディア」政策は、国内外の企業に対する投資を促進し、製造業の開発を加速させています。この政策は制約条件を緩和し、ビジネス環境を改善することで、国内外からの投資を惹きつけることを目的としています。
その結果、多くの外資企業がインドに製造拠点を設置し、雇用創出や技術移転が進んでいます。これによりインド製造業は大きな進化を遂げ、新たな価値を国際市場に提供しています。
また、2023年には、突如としてノートパソコンやタブレットなどの輸入に制限をかけて自国の製造業を守ったことでも話題になりました。
参照:インドのモディ首相が考える政策と2024年選挙|大統領との違いも解説
国際市場でのインドの立ち位置
国際市場におけるインドは、コストパフォーマンスの高い製品を提供する国として知られています。特に、製造コストの低さはインド製品の大きな強みです。
かつては中国が製造コストの安さで多くの企業の製品を製造していましたが、社会情勢の不安や賃金上昇によって撤退する国が増えています。新しい生産拠点を探していた企業にとって魅力的だったのが、豊富な労働力と製造コストの低さを両立しているインドです。
また、大量生産によるスケールメリットや熟練労働者の存在もインドの強みとなっています。
しかし、インドには品質管理の問題や電力供給の不安定さなどインフラの課題も存在していて、これらはグローバル競争力強化のための課題です。インドはこれからも続く技術革新に適応し、持続可能な成長を目指して国際市場での立ち位置をより強固なものにしていくポテンシャルを秘めています。
まとめ:インドの主要産業はIT産業・サービス業・農業・製造業
インドの主要産業には、IT産業やサービス業を筆頭に農業や製造業などがあります。インドでは経済成長に伴って輸出量も増え、現在は世界に様々な製品を届けてくれる国です。
また、IT大国として海外で活躍できる人材を育成し、世界的なIT人材不足を解消する希望にもなっています。今後もIT産業を中心に、様々な産業がインド経済を後押ししてくれるでしょう。