インド女性の社会進出の現状|女性を苦しめるインドの慣習を解説

経済成長とグローバル化が進むインドですが、女性の社会進出はあまり進んでいないのが現状です。インドではジェンダー格差や経済格差が激しく、女性の人権が守られていないためです。

本記事では、インド女性の社会進出と女性を苦しめるインドの習慣について解説していきます

インド女性の社会進出の現状

市場で働くインド女性

世界的に女性の社会進出が活発になっている現代ですが、インドでは女性の社会進出が1つの課題になっています。

  • インドでは男性優位が根強い
  • インド政府も女性の社会進出を支援
  • 社会進出をテーマにした啓発活動

インド女性の社会進出の現状について、詳しく解説していきます。

インドでは男性優位が根強い

インドでは、現在でも男性優位の考え方が根強く残っています。2023年の「ジェンダー・ギャップ指数(GGI)」では、インドは146ヵ国中127位と低い順位でした。

特に既婚女性の地位は低く、女性たちが差別や暴力に苦しんでいるという現実があります。インドでは結婚すると女性は家庭に入り、男性は外で働くという考えが強く残っているためです。

児童婚は法律で禁止されていますが、地方の農村部などではいまだに行われており、女性の教育の機会が奪われています。また、ヒンドゥー教では婚姻の際に新婦側が新郎側に持参金を用意する風習があるため、金銭的負担をなくすために子どもは男の子が望まれる傾向があります。

こうした背景から、1994年に性別を理由に中絶を禁止する着床前・出生前診断技術(PCPNDT)法が成立しました。インドの古くからの風習の影響で女性よりも男性の方が地位が高く、女性は差別を受けているのが現状です。

参照:寄付・募金の公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン「ジェンダーギャップ・レポート 2023」 停滞するジェンダー平等 – 格差是正まで131年
参照:インドでレイプ事件が多い原因は?過去の事例と5つの対策についても解説

インド政府も女性の社会進出を支援

インド政府は、女性の社会進出を促すための政策を打ち出しました。少しずつ女性の社会進出が増えてきたとはいえ、まだまだ男性優位であるためです。

現状では女性の給料は男性に比べ非常に少ないため、インド南西部のカルナータカ州では2023年6月から女性客のバス料金が無料になりました

また、2013年の会社法では、ある一定の基準を満たした会社に対して1名以上の女性取締役の選任が義務付けられています。2017年3月に労働法の改正が行われた際は、女性の産休取得期間が12週から26週に拡大され、産休や育休が義務化されました

さらに、女性の産休期間中の給料は、雇用主が全額支給するという決まりになっています。このようにインド政府も女性の社会進出の支援を始めています。

社会進出をテーマにした啓発活動

インドでは、各地で女性の社会進出をテーマにしたさまざまな啓発活動が行われています。その背景には、女性の地位を向上させようという社会全体の動きがあるためです。

2023年9月に日本で公開された映画『燃えあがる女性記者たち』は、インド出身の夫婦が監督を手がけています。ジェンダー差別を受ける女性たちが新聞社を立ち上げ、彼女たちの日々の厳しさを描いたドキュメンタリー映画です。

また、学校の中には、女性への暴力被害に関する啓発活動を行っている学校もあります。ジェンダー格差を無くすため、インドは社会全体で活動を続けています。

インド女性の結婚観

インド女性の遊び方

インド女性の結婚観は、時代とともに変わりつつあります。女性が経済的な自立や自分のキャリアを重視して、結婚を遅らせる傾向があるためです。

インドの結婚は基本的にお見合い結婚が主流で、親が結婚相談所、婚活サイト、新聞の結婚相手募集の広告などを利用して相手を探します。結婚相手には社会的、経済的な地位を維持できるような相手を選んでいるのが特徴です。

しかし、近年では20代の男女間でマッチングアプリが流行していて、時代の変化が感じられます。世界中では恋愛結婚が一般的になってきていますが、インドの恋愛結婚は現在でも珍しいと感じられます。

インドでは女性が仕事を優先したり恋愛を求めたりなど、結婚観が変化している最中ともいえるでしょう。

インド女性の働き方

街のインド女性

インドでは女性は家を守るという考えが根強いため、キャリア形成や家庭との両立が難しいのが現状です。

  • インド女性は低スキル労働に従事
  • インド女性を支えるベビーシッター
  • インドでは親と同居が一般的

インド女性の働き方と家庭との両立について、解説していきます。

インド女性は低スキル労働に従事

インドでは、女性の多くが特別なビジネススキルがなく低賃金で働いています。女性差別、経済状況から学校に通えないなどの教育格差にくわえて、結婚後に家庭に入るので働く機会が失われやすいためです。

2022年時点で女性の月額の給料は、正規雇用で約2万2,800円、非正規雇用では約9,280円でした。2013年に手作業での排せつ物の清掃は禁止されましたが、現在も手作業で排せつ物の処理に従事している女性もいます。

少しずつ働く環境も改善されてきてはいますが、インドではスキルがなくてもできる過酷な労働を強いられる女性たちはまだ多いのが現実です。

インド女性を支えるベビーシッター

インドの中流階級以上の家庭では、住み込みのベビーシッターに赤ちゃんのお世話を手伝ってもらうことは珍しくありません。その理由は、月額3万円という手頃な料金で雇うことができるためです。

子育てだけでなく、家事もメイドが担っているケースも多いため、女性が仕事と家庭の両立をしやすい環境が整っています。

しかし、中流階級以上の家庭を支えてくれているベビーシッターもメイドも低所得者層のため、階級を抜け出しにくいのが問題になっています。

日本でも一部の経営者が富を拡大して従業員が一定の賃金で労働する構図になっていますが、インド社会ではよりその構図が凝縮されているといえるでしょう。

インドでは親と同居が一般的

インドでは結婚後、新婦は新郎の親と同居するのが一般的です。幼い頃からそういうものだと思っており、同居して新郎の親の面倒を見ることに誇りを持っているためです。

この伝統的な家族構造は、女性が仕事と家庭の両立を図る上で大きな助けとなっています。

例えば、同居している親が家事や子育てを手伝うことによって、女性は仕事と家庭のバランスを取りやすくなるためです。

その一方で、この同居生活は女性の個人的な自由やプライバシーに制約を与える側面もあります。女性がキャリアや個人的な選択を自由にするためには、まだ多くの課題が残されています。

インド女性を脅かす習慣

インドの姉妹

インドでは、以下のような女性にとって悪しき習慣があります。

  • ガオコル
  • ダウリー
  • チャイルドブライド
  • サティ

現在は禁止されているものもありますが、まだ地方や一部の人の間で行われているのが現状です。インドの女性を脅かす習慣について解説していきます。

ガオコル

インドの一部の地域ではガオコルと呼ばれる習慣があります。ガオコルは、月経のある女性を一定期間、不衛生な小屋に閉じ込める習慣です。

インドでは月経は不浄なものと考えられているため、家族や村の人、家の中のものにも触れてはいけない習慣になっています。不衛生な小屋に隔離されるため、隔離中に感染症で命を落としたり、ヘビやクマに狙われたりする危険性もあります。

実際に、2016年に少女が野生動物に連れ去られるという事件も起きました。インドの女性に精神的な苦痛を強いるガオコルは、命の危険さえもある習慣です。

ダウリー

ダウリーとは、結婚時に新婦側が新郎側の家族に持参金や家財道具を贈る習慣です。元々は上層階級の中での習慣でしたが、後にインド全域で行われるほど一般的になりました。

ダウリーは親にとって大きな負担になるため、生まれてくる子どもが女の子の場合は中絶や出産後に命を奪うという事例も起きています。

また、ダウリーの支払いが十分でない場合は、結婚後に新郎や新郎側の家族から暴力を受けるリスクもあります。1961年にインド政府はダウリーを違法としましたが、地域によっては現在もダウリーは残っています。

事実、ダウリーによって毎年7,000人近い死者が報告されているのが現状です。インドの女性にとって、ダウリーは今も続く深刻な問題です。

チャイルドブライド

チャイルドブライドとは、未成年の女性が結婚させられる習慣です。貧しい家庭では、娘を早く結婚させることでダウリーを軽くし、経済的負担を少なくしたいと考えているためです。

結婚は本人の同意を得てから行われることもありますが、経済的な理由や親の都合で強制的にさせられることも多くあります。

また、チャイルドブライドは、子どもの権利の侵害や成長にも悪影響を与えます。未成年の妊娠、出産は死亡リスクが高くなるため非常に危険です。

インドの実施した調査では2019年〜2021年に18歳未満で結婚した女性は全体の約4分の1を占めていたといわれています。チャイルドブライド関連での子どもの死亡率は高く、1929年に違法となりました。

しかし、チャイルドブライドは貧困家庭などでは今でも行われており、撲滅には至っていません。

サティ

サティとは夫の死後、妻が焼身自殺を図り自ら命を絶つという習慣です。過去には女性の究極の忠誠と献身の証とされていました。

ヒンドゥー教では女性の人格は基本的に認められておらず、本人の意思でなくても新郎側の家族からサティを強いられることもあります。サティは1829年に禁止されましたが、現在でもサティによる死者が出ています。

サティのような不平等な習慣は、ジェンダー平等や人権の観点から見て大きな問題です。

まとめ:インドでは女性の社会進出には多くの課題がある

働くインドの女性

インドでは、女性が低賃金で過酷な労働を強いられるケースが多々あります。中流階級以上ではベビーシッターやメイドを雇ってビジネスに注力できますが、仕事そのものを認めてもらえない女性も多いのが現状です。

また、インドではガオコルやサティなど、命に関わるような習慣もありました。法律で規制はされていても、地域によってはまだ上記のような習慣はインドの女性を苦しめています。

インドは経済成長を続けて世界中からビジネスマンが訪れるようになってきているので、女性の社会進出も先進国のように普及する日がくるでしょう