インドは、急速な人口増加とIT化が進み、世界中から注目を集めている国です。ビジネスの場として、歴史的遺産を楽しむ観光客として、多くの人々がインドを訪れるようになりました。
そんなインドですが、日本とどのような関係を築いてきたのかあまり知らない人もいるでしょう。そこで今回は、日本とインドの関係について解説していきます。
インドについて知りたいと思っている人は、最後まで読み進めてみてください。
インドの歴史~紀元前から現在まで~
まずはインドの歴史について解説していきます。インドは紀元前から文化を持っていた数少ない国なので、歴史で習った人もいるでしょう。
紀元前から近年の発展まで、インドの歴史を紐解いていきます。
インドの歴史
インドの歴史は、紀元前3世紀頃のインダス文明から始まりました。
モヘンジョ=ダロと呼ばれる遺跡だけでなく、彩文土器や金属器などが残されていることから、高度な文明だったと解析されています。大学共同利用機関法人「総合地球環境学研究所」によると、インダス文明はインダス川の洪水と海洋変動によって滅んだと結論づけられています。
古代のインドでは、ヒンドゥー教の基礎が形成されたり、仏教の始祖ガウタマ=シッダールタ(別名ブッダや釈迦)が誕生したりと、宗教との関わりが密接だったことも特徴です。
中世には、多くのヒンドゥー王朝やイスラム王朝がインドを支配しました。これらの時期には、文化、芸術、建築が花開き、インド独自の作品が数多く形成されています。特に1653年のムガル帝国時代に建築されたタージ・マハルは現在でも多くの観光客を魅了しています。
18世紀に入ると、イギリスがインドを植民地にするため進出してきます。1857年のインド大反乱を鎮圧してからは、イギリス国王が皇帝を兼ねるインド帝国が樹立しました。
参照:大学共同利用機関法人「総合地球環境学研究所」|環境変化とインダス文明
参照:インドの歴史について解説!歴史を経て現在の経済政策は進出に関係ある?
インドの独立と発展
イギリスの植民地期間、インドとイギリスは度々衝突しましたが、イギリスの武力には及びませんでした。そんなインドに、独立の父と呼ばれるガンディーが登場します。第二次世界大戦での日本軍侵攻や戦後の周辺国からの圧力もあり、1947年にインドはイギリスから独立しました。
現代のインドは、経済、技術、教育の面で急速に成長しています。とくに、IT業界の発展は顕著で、多くのインド人技術者が世界中のIT企業で活躍中です。インド南部のバンガロールは、第二のシリコンバレーと呼ばれるほど世界的な注目を集めています。
経済面では、インドは農業、製造業、サービス業と多角的に発展しています。近年、外国からの投資も増加しており、インドは国際ビジネスの重要な基盤となっています。郊外の人件費の安さと、都市部の急速なIT化というアンバランスな構造が、世界中からビジネスを集める理由です。
参照:インドがイギリスから独立するまでの歴史|ラーマやガンディーの活動も解説
近年の日本とインドの関係
日本とインドは、戦後の1952年に国交を樹立し、正式に外交が始まりました。その後の日本とインドの関係について、以下の分野ごとに解説していきます。
- 政治・安全保障分野
- 経済分野
- 文化分野
とくに政治・安全保障と経済は私たちにとっても関係の深い分野なので、注視してみてください。
政治・安全保障分野
日本とインドの関係は、政治と安全保障の面で非常に重要な関係になっています。軍事協力、情報共有、防衛技術の共同開発など、連携は多岐にわたります。
たとえば、日本とインドは、2007年からアメリカを交えてマラバールという共同訓練を実施しました。2020年以降はオーストラリアも参加し、太平洋とインド洋に分けて共同訓練を実施しています。
これらの活動は、インド太平洋地域の安定と繁栄を保つという両国共通の目的にもとづいています。インド太平洋地域の安定は、広い意味で世界平和と安全に直結しているため、両国の協力は国際社会にとっても重要です。
経済分野
経済においても、日本はインドに対して大規模な投資をおこなっています。具体的には、インド国内のインフラ整備、製造業の発展、ITサービス業界への支援などが含まれます。
例えば、2017年にムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道の着工式がおこなわれましたが、日本の新幹線方式が採用されました。2015年12月の日印首脳会談で、ムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道に関する覚書を交わしていたためです。
高速鉄道の借款金額は3,713億4,500万円、ラジャスタン州水資源セクター生計向上事業の借款金額は137億2,500万円など、多くの事業で日本はインドを援助しました。このような経済関係の強化は、アジアの経済力を世界に示すとともに、日本とインドの経済的なつながりを深めています。
文化分野
日本とインドの関係をさらに強化しているのは、文化的な交流です。1957年に日印文化協定締結を交わして以降、日本のアニメや文学、映画はインドで高い人気を博しています。一方で、インドの映画や料理も、日本で広く受け入れられています。
具体的には、「ムトゥ 踊るマハラジャ」や「マダム・イン・ニューヨーク」などは日本でも多くの観客から受け入れられました。料理に関しても、現在では日本の各地でインド料理店が出店し、日本人に人気です。
法務省が集計した在日インド人数は、2022年12月時点で43,886人でした。外務省が集計した在留邦人数は、2022年10月時点で8,145人です。このような両国民の文化交流は、日本とインドの友好関係に大きく貢献しています。
参照:外務省「インド基礎データ」
参照:【2024年決定版】インドの一度は行きたい世界遺産ランキングTOP15!
インドと各国との関係
インドの急速な発展は、各国との関係性にも影響を与えています。今回は、QUADへの参加と、インドと中国、インドとロシアとの関係について解説していきます。
QUADへの参加
インドは、アメリカ、日本、オーストラリアと共に「QUAD(クアッド)」と呼ばれる枠組みに参加しています。QUADは、2004年のインドネシアのスマトラ島沖の巨大地震と津波の被害に対する支援を上記の国が主導したことがきっかけでした。2007年に初めて事務レベルでの会合を開催、以降は2019年に初めての外相会談、2022年に東京で首脳会談を果たしています。
東京での首脳会談では、「インド太平洋地域における日米豪印HADR(人道支援・災害救援)パートナーシップ」の立ち上げを発表したことも話題です。インド太平洋地域は、アジアから太平洋にかけての広大な地域を指し、世界経済において重要な海路が通っています。QUADは、この地域の自由で開かれた海洋秩序を支持し、地域の安全保障と経済的繁栄を目指しています。
一方で、QUADは中国の地域的影響力の増大に対するバランスを図るため作られたという声もあり、新たな冷戦の始まりを危惧する声も上がっています。
参照:首相官邸「2022年5月24日 日米豪印首脳会合の概要」
インドと中国との関係
インドと中国は、経済的には互いに重要なパートナーですが、領土問題や安全保障の面では緊張関係にあります。1962年には中印国境戦争があり、インドは中国に敗れました。1976年に国交を正常化し、1993年にインドと中国は平和維持協定に調印しました。
しかし、実効支配線付近ではその後も銃撃戦が続き、両国間の関係に緊張をもたらしています。これらの衝突は、しばしば国際的な注目を集め、アジア地域の安定にとって重要な課題となっています。
領土を巡っての緊張はあるものの、インドと中国の経済的な結びつきは強化されました。2000年に29.2億ドルだったインドと中国の貿易額は、2014年には715.9億ドルになり、インドの最大の貿易相手国になっています。経済成長を続けるインドと中国の関係は、今後の世界平和にも大きな影響を及ぼすと予測されています。
参照:公益財団法人 日本国際問題研究所「米中関係とインド外交の最近の動き」
参照:インドと中国の関係は?どちらに進出するのがおすすめか徹底解説!
インドとロシアの関係
インドは中国とは緊張関係にある一方、ロシアとは長い間友好的な関係です。インドとロシアが友好関係にあると結論づけたのには、以下の理由があります。
- 過去に印ソ平和友好協力条約を結んだ
- ロシアから武器の供給を受けている
インドがソ連と印ソ平和友好協力条約を結んだのは、1971年です。インドがパキスタンへの攻撃を決めた際に、インドがもっとも警戒したのは中国からの攻撃でした。
そこで、古くから友好関係にあったソ連と印ソ平和友好協力条約を結ぶことで、中国を牽制します。中国がインドに攻撃を始めた際にロシアが中国を攻撃する構図を作ることで、インドはパキスタンへの攻撃に集中できる環境構築に成功しました。
実際、国連の安全保障理事会では、第3次印パ戦争でのインドの軍事作戦を止める決議が採択されましたが、ソ連が拒否権を行使して否決されています。
また、ロシアはインドにとって重要な武器供給国です。現在インドが所有する武器の半数は、旧ソ連製かロシア製のものです。戦車や戦闘機だけでなく、銃や弾薬まで多くの武器提供を受けているので、修理や弾薬を補充するためにロシアが欠かせない状態になっています。
外交面ではアメリカをはじめとする西側との関係を深める一方、ロシアとの関係も維持したいのがインドの本心でしょう。事実、ロシアがウクライナに侵攻した際も、インドはQUADで唯一ロシアを非難せず、逆にロシアからの原油輸入を増やして実質的な支援をしました。
参照:公益財団法人 日本国際フォーラム「日米豪にとって、なぜインドは大事なのか?」
日本とインドが友好的関係を維持できる理由
日本とインドは、大きな対立もなく友好的な関係を維持してきました。なぜ、日本とインドが友好的な関係を維持できているのか、その理由について2つ紹介していきます。
日本からインドへの支援
日本は、医療分野やインフラ整備をインドに提供しており、これが両国関係の重要な基盤となっています。
具体的には、ポリオ撲滅運動の支援や病院への医療機材整備への支援です。ポリオ撲滅計画では、2000年から10年以上にわたってインドへの支援を続け、インドの人口増加を下支えしました。病院への支援も、サー・ジェイ・ジェイ病院やカマ・アンド・アルブレス母子病院、オリッサ州サダール・バルバイ・パテル小児医療大学院病院へ医療機器を整備するための支援をおこなっています。
インフラ整備では、ウッタール・プラディシュ州地下水開発やアンダマン・ニコバル諸島における電力供給能力向上のための支援を果たしてきました。これらのプロジェクトは、インドの都市化と経済発展をサポートするだけでなく、国民の健康維持への取り組みにも大きく貢献しています。
日本の先進技術は、現在のインドの経済発展を支えるために重要な成果を残しました。
スズキ自動車の活躍
スズキ自動車はインド市場で大きな成功を収めており、日本とインドの経済関係の良い例となっています。インドは世界5位と大きな市場ですが、スズキはそのインドの市場でシェア50%以上を占めています。
スズキが現地企業を合併して進める「マルチ・スズキ・インディア」の2017年の販売台数は164万3467台で、乗用車市場の50%を占めました。インド国内で販売されている自動車の2台に1台はスズキ自動車製と考えると、その影響力が大きいことが分かります。
スズキ自動車の成功は、日本企業がインド市場に適応し、現地でのビジネス展開の可能性を示しました。現在では、日本よりもIT化が進んでいるインド企業と連携したり、インドの郊外に工場を作って製品を作ったりする日本企業が増えています。
日本とインドの今後の関係
日本とインドの今後は、経済面での関係強化が予測されています。その中でも、以下の点に着目しました。
- 日本企業のインド進出
- 日本とインドのIT化
それぞれについて、詳しく解説していきます。
日本企業がインド進出するメリット
日本企業がインド市場へ進出すると、以下のようなメリットがあります。
- 2029年には日本を抜き経済大国になる
- 若者が多くて労働力が見込める
- インドの研究開発への投資
日本経済研究センターの試算によると、インドは2029年に日本を抜き、世界3位の経済大国になると発表されています。2035年のインドのGDPは10兆ドルになると予測されていて、人口減少にともなう市場の縮小が進む日本とは真逆になるでしょう。
国連人口基金の算出では、インドは2030年には人口が15億人、2050年には17億人に達すると予測しています。そんなインドでは、13億人中30代以下が5割強という理想的な人口ピラミッドです。
インドでは、今後も経済発展が続いていくと予測されているので、技術力を持った日本企業にとっては理想的な市場になります。同時に、高齢化が進む日本と異なり、若者が多い
インドは、労働力も豊富です。労働力が不足する日本企業にとって、インドの労働力は大きなメリットになります。
そして、インドでは研究開発への投資という名の税制優遇処置があります。具体的には、一定の条件をクリアした後にインド政府の認可を受ければ、10年間もの間、法人税非課税措置が適用されるうえに、研究費用の2倍の金額を申告控除可能です。
参照:インドの人口が中国を抜いて世界最多に!人口の推移と少子化について解説
IT後進国の日本とIT先進国のインド
インドはIT分野で急速な成長を遂げています。その理由は、研究開発への投資を目当てとした世界中のIT企業がインドへ進出したためです。
とくに、ソフトウェア開発とサービスが国際的に高い評価を受けています。この分野でのインドの進展は、比較的後れを取っている日本のIT産業に新たな刺激を与えています。
日本企業は、インドの先進的なIT技術や優秀な人材を活用することで、自国のIT産業の発展を促進することが可能です。日本企業はインドのIT企業と提携し、ソフトウェア開発やデータ処理サービスを共同でおこなうなど、相互に利益をもたらす関係構築が望ましいでしょう。
参照:インドの主要産業はIT産業?GDP成長率と海外への主な輸出品を解説
まとめ:日本とインドはこれからも友好関係を維持していくことが必要
日本とインドの関係は、経済、政治、文化など様々な分野で良好です。世界経済や国際政治の変動に応じて、日本とインドはお互いに影響を与え合いながら、より強固なパートナーシップを築いていくことが期待されています。
とくに、経済協力や防衛分野での連携、文化交流の促進など、協力は多方面にわたります。お互いの国の発展と地域平和のためにも、今後も日本とインドの友好的な関係は必要不可欠になるでしょう。
今後、ビジネスやプライベートでインドを訪れる際は、より一層増えるかもしれません。