インドの公用語はヒンディー語?州ごとの公用語と多言語事情を解説

インドにはインド語は存在しません。インドの公用語は?と聞かれると、何が公用語なのか分からない人が多いのが現状です。
これから観光やビジネスでインドを訪れる予定の人は、どんな言語を勉強しておく必要があるのか、英語は通じるのか心配になるでしょう。本記事では、インドの州ごとの公用語からマルチリンガル文化について解説していきます

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インドで使われる言語の数は?

インドで使われる言語の数は?

インドでは、1万人以上話者がいる言語は121言語あります。小さな集落の言葉を合わせると、約461の言語が存在するともいわれています

インドはその広大な地域と多民族で形成された国だからです。インドの言語状況はビジネスから文化、教育にいたるまで多くの分野に深く影響しています。

インド憲法では22の言語が公用語として指定されています。一例を挙げるとヒンディー語、ベンガル語、マラーティー語などです。

しかし、これらの言語がすべて全国的に公用語として採用されているわけではありません。インドでの主要な公用語はヒンディー語です。

また、インドの各州は独自に公用語を定めることができ、州言語が公用語として採用されています。州言語によって地域ごとの文化が保護され、地域の独自発展が促進されています。

 
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インドのお札には、公用語である22の異なる言語で金額が記載されています。

なぜインドには多くの公用語があるのか?

インドの多言語文化はその長い歴史や広大な地理、そして複雑な文化的背景から生まれました。数千年にわたる歴史を持つインドは多様な民族、文化、宗教が共存する国です。

北部の山岳地帯から南部の海岸線にいたるまで、異なる地理的特徴や民族を持つ各地域では、独自の言語や方言が発展してきました。そのため、北部と南部では言語系統そのものが異なっています。

憲法で多言語を認めることで、多様な背景を1つの国家としてまとめようとするインド政府の強い思いがうかがい知れます。

インドの主要な公用語

インドの主要な公用語

インドの主要な公用語は以下の通りです。

  • ヒンディー語
  • ベンガル語
  • マラーティー語
  • テルグ語
  • タミル語

それぞれの公用語の特徴について解説していきます。

ヒンディー語

ヒンディー語は、インドで最も広く話されている公用語です。インド憲法で「インドの公用語」として位置づけられており、政府の公式文書や教育だけでなく、メディアやエンターテインメントにおいて広く使用されています

ヒンディー語の話者はインド国内に5億人以上いるといわれており、ヒンディー語の挨拶や言葉を覚えることで多くのインド人と話せる可能性があります。第一言語が異なっても、多くのインド人が第二言語としてヒンディー語を話すためです。

ヒンディー語の理解は、インドでの商取引やビジネス関連のコミュニケーションで相手との信頼関係を築くために重要です。

 
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私がデリーに住んでいた頃は、英語が通じる相手であっても、ヒンディー語で話しかけると喜んでもらえ、より親しくなれました。ヒンディー語で「こんにちは」は「ナマステ」(Namaste)です。

ベンガル語

ベンガル語は、ヒンディー語に次いで話者の多い公用語です。推定話者は8,000万人以上で、隣国バングラデシュの公用語です。

ベンガル語圏には、パキスタンやネパールの一部も含まれます。もともとインドとパキスタンは同じ国でしたが、宗教対立が激化したことでムスリムを信仰する民族が新たにパキスタンを建国しました。
ベンガル語圏では映画、文学、音楽などの文化産業が非常に盛んです。また、ベンガル語話者のコミュニティは、ビジネス交渉やマーケティング戦略においても重要なターゲットとなり得ます。

参照:インドとパキスタンの仲が悪い理由|両国が分裂した歴史と現在を解説
参照:インドとネパール隣接する2つの国の違いとそれぞれの特徴を解説

マラーティー語

マラーティー語の話者は7,000万人を超えています。このマラーティー語圏には、インドの経済的、商業的な中心地であるムンバイが含まれています

そのため、マラーティー語はムンバイでのビジネスにおいて非常に重要な公用語です。

マラーティー語のもっとも古い記録は、10世紀までさかのぼります。カルナータカ州にあるジャイナ教神殿の大神像の足に掘られた文字がマラーティー語でした。

マラーティー語圏でビジネスを行う際は、マラーティー語を理解して地元の人々との良好な関係を築き、信頼を得ることが重要です。仕事でムンバイに訪れる予定がある人は、マラーティー語の挨拶を覚えていきましょう。

参照:インドのムンバイ進出はおすすめ!その理由とムンバイについても解説

 
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ムンバイ出身の友人にヒンディー語で話しかけたら、「私はムンバイ出身で、ヒンディー語はわかるけど母語はマナティー語です。文字は同じだけどね!」と言われたことがありました。

テルグ語

テルグ語の話者は、マラーティー語とほぼ同じで7,000万人以上です。このテルグ語は、南インドで広く話されている公用語です。

テルグ語の文学は11世紀に作家のナンナヤバッタが残した叙事詩マハーバーラタでした。このテルグ語には4つの地方方言と3つの社会方言(階級やカースト)が存在します。

2022年に公開された映画「RRR」も、もとはテルグ語で制作されています。また、エンジニアが多く集まるハイデラバードもテルグ語圏です。

ハイデラバードは「サイバーバード」とも呼ばれ、多くの国内外のIT企業が集結しているグローバルなビジネスの拠点としても知られています。日本では日立ソリューションズが開発センターを置いています

テルグ語はIT産業や関連分野で活動するビジネスパーソンにとって、重要なコミュニケーションツールです。

参照:インドのハイデラバード進出を徹底解説!基本情報から進出のおすすめジャンルも紹介

タミル語

タミル語の話者は6,000万人以上存在しています。タミル語はインド南部の地域で使われている公用語です。

タミル語はインドの他にシンガポール、マレーシア、スリランカなどのコミュニティでも広く話されています。タミル語圏のタミル・ナドゥ州は、インドのアパレル生産1位、繊維生産2位の産地としても有名です。

 
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日本ではタミル語があまり一般的でないため、日本の南インド料理店などでタミル出身の方にタミル語で挨拶すると、驚いて喜んでくれます。タミル語で「こんにちは」は「ヴァナッカーム」(vaṇakkam)といいます。

インドでは地域の公用語と文化に深い理解を持つことで、より信頼されるパートナー関係が結べます。

インドの州ごとの公用語

インドの州ごとの公用語

インドは各州ごとに異なる公用語が設定されています。この独特の言語政策はインドの多様な文化を反映し、各州の言語と文化を保護するために重要です。
それぞれの州ごとの公用語を紹介していきます

インド北部の公用語

インド北部にある州の公用語は、以下の通りです。

  • ヒマーチャル・プラデーシュ州:ヒンディー語
  • パンジャーブ州:パンジャーブ語
  • ウッタラーカンド州:ヒンディー語
  • ハリヤーナー州:ヒンディー語
  • ウッタル・プラデーシュ州:ヒンディー語、ウルドゥー語
  • ビハール州:ヒンディー語

インド北部では、ヒンディー語を公用語と定めている州が多いのが特徴です。もしインド北部に行く予定がある人は、ヒンディー語の挨拶を覚えておくとスムーズなコミュニケーションができます。

インド南部の公用語

インド南部にある州の公用語は、以下の通りです。

  • ケーララ州:マラヤーラム語
  • タミル・ナードゥ州:タミル語
  • アーンドラ・プラデーシュ州:テルグ語、ウルドゥー語
  • テランガーナ州:テルグ語、ウルドゥー語
  • オリッサ州:オリヤー語
  • 西ベンガル州:ベンガル語
  • ジャールカンド州:ヒンディー語

インド南部ではさまざまな公用語が設定されています。実際に訪れる州が決まっている場合は、その州の公用語を確認してから出発しましょう。

インド東部の公用語

インド東部にある州の公用語は、以下の通りです。

  • シッキム州:ネパール語、シッキム語、レプチャ語、英語
  • アルナーチャル・プラデーシュ州:英語
  • アッサム州:アッサム語、ボド語
  • ナガランド州:英語
  • マニプール州:マニプリ語、英語
  • メガラヤ州:英語
  • ミゾラム州:ミゾ語
  • トリプラ州:ベンガル語、コクバラ語

インド東部は他の地域と異なり、英語を公用語としている州が多いのが特徴です。インド東部を訪れる際は、英語の辞書や翻訳アプリを活用してみましょう。

インド西部の公用語

インド西部にある州の公用語は、以下の通りです。

  • ラジャスタン州:ヒンディー語
  • グジャラート州:グジャラート語
  • マディヤ・プラデーシュ州:ヒンディー語
  • チャッティースガル州:ヒンディー語、チャッティースガリー語
  • マハーラーシュトラ州:マラーティー語
  • ゴア州:コンカニ語
  • カルナタカ州:カンナダ語

インド西部にはヒンディー語を公用語としている州もありますが、独特の言語を公用語にしている州もあります。余裕がある人はヒンディー語を勉強してから現地を訪れてみてください。

インド人はマルチリンガルが多い

インド人はマルチリンガルが多い

インドでは言語の多様性が日常生活の根底にあるので、多くの人々が複数の言語を話すマルチリンガルです。インドのマルチリンガルは教育システムと社会構造に深く根ざした特徴です。
多くのインド人は自身の母語に加えて、国内他地域の言語や国際ビジネスで広く使用される英語を話します。そんなインドのマルチリンガル文化について解説していきます

インドはメディアやエンターテインメントも多言語

インドのメディアやエンターテインメント業界は、国内の言語の多様性を色濃く反映しています。映画、テレビ番組、音楽、文学作品などが異なる言語で制作され、消費されているのが現状です。

たとえば、ボリウッド映画は主にヒンディー語で制作されますが、テルグ語やタミル語で制作される映画産業も非常に盛んで地域ごとの文化を反映しています。

インドでは多様性が当たり前

インド社会における言語の多様性は単なる現象ではなく、日常生活の基盤です。異なる言語や文化が共存して相互に影響を与え合うため、多様性はインド人にとって自然な状態となっています。

ビジネス環境においても、この多様性を理解し受け入れることは非常に重要で、異なる言語や文化への理解が必要です。たとえば、インド北部での商談ではヒンディー語の知識が役立ち、南インドではタミル語やテルグ語の理解が重要です。

国際的なビジネスシーンでは英語が共通言語として認識されていますが、インドでのビジネスは地域の言語を理解することでより深い関係を構築できます。

インド人とコミュニケーションを取る場合はどうする?

インド人とのコミュニケーション

インドでビジネスを成功させるためには、その多言語環境を理解し適応する能力が必要です。まず、ビジネスを行う対象地域の主要言語を把握し、基本的なコミュニケーション能力を身に付けましょう

また、インドでは英語がビジネス言語として広く使われており、多くのインド人が流暢に英語を話します。英語は、国内外のクライアントやビジネスパートナーとのコミュニケーションにおいて共通言語として役立つためです。

英語だけに頼るのではなく、地域の言語を尊重して少しでも学ぶ努力をしてみましょう。簡単な挨拶や日常会話を地域の言語で行うことで相手に好印象を与え、ビジネス関係をより強固なものにできます。

さらに、インドでのコミュニケーションでは文化的な差異を理解し、適切なエチケットを守ることが重要です。ビジネスミーティングでは正式な服装を選び、相手の地位や年齢に応じた敬意を示します。

まとめ:インドの公用語は州によって異なる

インドの公用語は州ごとに異なる

インドでは主要な公用語としてヒンディー語が使われますが、憲法で州独自の公用語を認めています。そのため、北部と南部、東部と西部などで公用語は全く異なります。

インドは古くから多民族国家として発展してきたので、お互いの文化や背景を理解することが自然だからです。そのため、メディアやエンターテインメントもさまざまな言語で提供されています。
ビジネスでインドを訪れる際は、共通言語として英語が使えるシーンが多いかもしれません。しかし、英語に甘えず訪れる地域の公用語で挨拶や簡単なコミュニケーションを取ることで、良好な関係を構築できるでしょう