インドは、急速に経済成長を遂げている国のひとつで、富裕層の数も急増しています。
インドの富裕層は社会、経済、そして地域に与える影響が大きいため、さまざまな見解が入り混じっているのが現状です。
本記事では、インドの富裕層が増えた理由とその影響について解説します。日本企業にとってもインドの富裕層はビジネスパートナーとして魅力的なので、参考にしてください。
インドの富裕層とは?
富裕層の一般的な定義は、総資産が100万ドル(約1億4,300万円※1ドル=143円換算)以上の人々で、ジェトロ(日本貿易振興機構)の統計では、インドの富裕層は世帯別年間可処分所得35,000ドル(約500万円)と定義されています。
インドの富裕層は高級なライフスタイルを楽しみ、高価な不動産や車、そして海外旅行などに費やすことが一般的です。
富裕層の定義は、単に年収だけではなく、資産の総額や消費の傾向も考慮されます。富裕層は多くの場合、教育や医療、娯楽に多額の資金を投入し、生活の質を高めるための投資も怠りません。
富裕層の消費行動は不動産や観光などの関連産業にも影響を与え、市場全体の成長要因となっています。
急増するインド富裕層の増加率
ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、インドの所得上位1%にインド全体の所得の約23%が集中しています(2022年時点)。
世帯別年間可処分所得35,000ドル(約500万円)とされるインドの富裕層は、2010年時点では人口の0.5%でしたが、2025には4.1%に達する見通しです。
パーセンテージだけで見るとインドの富裕層は少なく感じるでしょう。
しかし、人口14億人を超えるインドでは2025年の富裕層の数が5,000万人を超えるため、一気に増えていることがわかります。
富裕層の増加は国際的な投資や資本の流入とも関連しています。多くの外国企業がインド市場に参入し、高収入の職を提供することで、富裕層の層がより一層厚くなっています。
インドで富裕層が多い地域
富裕層が増えているインドですが、多くの富裕層は一定の地域にコミュニティを構築しています。特に富裕層が多いのが、以下の地域です。
- デリー
- ムンバイ
- ベンガルール(旧バンガロール)
上記の地域に富裕層が多い理由を解説します。
デリー
デリーはインドの首都で、富裕層が多く住む都市のひとつです。デリーには多くの多国籍企業や大手企業の本社があり、高収入のビジネスマンや企業家が多く住んでいます。
デリーの経済成長は、富裕層の増加とも密接に関連しています。特に、ビジネスの中心地であるコンノート・プレイスやレッドフォート周辺には高級住宅地が集中していることも富裕層が多い要因です。
デリーには多くの高級ショッピングモールやレストランがあり、富裕層の消費行動を支えています。
また、デリーの教育機関や医療施設も他の地域と比較すると世界水準のものが多く、富裕層にとって魅力的な都市となっています。デリーの情報は、以下の記事を参照してください。
参照:インドのニューデリーについて解説!|デリーの違いと進出についても
ムンバイ
ムンバイはインドの金融と商業の中心地で、多くの富裕層が生活しています。2024年には中国の北京を抜いてアジアで最も億万長者が多い都市になりました。
ムンバイには、インド最大の証券取引所や大手企業の本社が多数あり、高収入の職業が豊富です。
そのムンバイの経済成長は、金融業界の発展と密接に関連しています。特に、証券取引所周辺には多くの金融機関が集まり、高収入の専門職が多く存在しています。
また、ムンバイには多くの高級住宅地やリゾート地があるので、プライベートを満喫したい富裕層にとって理想のライフスタイルを実現可能です。
こうした富裕層の需要から、ムンバイの不動産価格は上昇の一途をたどっています。
さらに、ムンバイは映画産業の中心地でもあるので、多くの映画スターや著名人も富裕層に含まれています。ムンバイとボリウッドについては、以下の記事を参照してください。
参照:インドのボリウッドとは?インド映画の人気作品7選と有名俳優も紹介
ベンガルール(旧バンガロール)
ベンガルールはインドのIT産業の中心地で、多くの富裕層が住んでいます。ベンガルールにはIT企業やスタートアップが集まり、高収入のエンジニアや起業家が多く住んでいるのが特徴です。
ベンガルールの富裕層は、特にIT産業の発展と密接に関連しています。多くのグローバルIT企業がベンガルールに拠点を構えているため、世界基準の収入を提供しているためです。
さらに、ベンガルールには高級住宅地やエンターテイメント施設があり、富裕層のライフスタイルをサポートしています。
ベンガルールは比較的新しい都市なので、デリーやムンバイと比較して治安が安定しているのも富裕層に好まれている要因です。ベンガルールの特徴は、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:【進出必見!】インドのバンガロールを解説!進出をおすすめする理由も紹介
インドの富裕層と資産が集中する3つの産業
インドの富裕層は、以下の産業に集中しています。
- IT・テクノロジー産業
- 不動産・建設業
- 金融・投資業
特に、成長が著しいインドのIT・テクノロジー産業には世界中が注目しています。
IT・テクノロジー産業
近年のインドの富裕層は、ITやテクノロジー産業で急成長を遂げています。
ベンガルールやハイデラバードはITやテクノロジー企業が集積し、ベンガルールは 「インドのシリコンバレー」として知られています。
これらの都市にはインドの企業だけではなく、GoogleやAppleなどの世界的に有名なソフトウェア企業やスタートアップが多く存在し、グローバルな成功を収める企業が続出しています。
その中でもインドは、ソフトウェア開発やアウトソーシングを通じて世界中の企業と取引を行い、巨大な富を生み出しています。
また、若手の多いITやテクノロジー産業では、長年問題視されていたカースト制度の規定に含まれないことでも有名です。
インドではカーストによって仕事が限定されてきましたが、ITやテクノロジー産業はカーストに関係なくスキルがあれば従事できます。インドのカースト制度については、以下の記事で解説しています。
参照:インドのカースト制度とは?進出・経営への影響や他のメリットについても
不動産・建設業
不動産業は、インドの富裕層にともない大きな成長を遂げています。
都市部では不動産価格が急上昇し、ムンバイ、デリー、ベンガルールなどの主要都市で高級住宅やビジネスセンターの建設が盛んです。
これにともない、不動産は富裕層にとって主要な投資対象となり、多くの資産がこの不動産業界に集中しています。
インドの富裕層にとって不動産は、安定した資産運用の一環として重要な役割を果たしています。
金融・投資業
金融と投資もインドの富裕層にとって重要な産業です。
インドの株式市場は急速に成長し、多くの富裕層が株式や投資信託を通じて資産を増やしています。
特に、ムンバイにあるインド証券取引所(BSE)は世界でも有数の規模で、富裕層に投資機会を提供する主要な場となっています。
金融商品や株式の取引が活発化する中で、金融業界は富の蓄積を加速させる要因となっています。
インド富裕層の消費行動とトレンド
インドの富裕層の消費行動は、インド企業やインドに進出する海外企業にとって重要です。
- 高級ブランドとサービス
- 人気のライフスタイル
それぞれのトレンドを紹介します。
高級ブランドとサービスのトレンド
インドの富裕層は、国際的な高級ブランドやラグジュアリーサービスに強い関心を持っています。
高級車やジュエリー、ファッションはもちろんのこと、超富裕層はプライベートジェットや豪華なリゾート施設への投資も増えています。
女性に人気のブランドとしては「ANOKHI」や「FabIndia」などがあり、ヘルスケアやウェルネス市場も活発です。
富裕層に人気のライフスタイルや趣味
富裕層はゴルフやヨット、アートコレクションなどの趣味を通じて、贅沢なライフスタイルを楽しんでいます。
特に、世界中を巡る旅行やヨーロッパやアメリカの一流ホテルでの滞在は、インドの富裕層にとって一般的な娯楽です。
また、インドの富裕層はワインや芸術作品などの貴重品を収集するため、プライベートオークションにも積極的に参加しています。ゴルフやテニスといったスポーツは、富裕層の間で社交の場としても機能しています。
富裕層がもたらすインドへの影響
インドの富裕層の消費やトレンドは、各方面に大きな影響を与えます。
- 経済への影響
- 社会的影響
- 文化への影響
それぞれの観点から富裕層がインドへ与える影響を解説します。
経済への影響
富裕層の消費行動はインド経済に大きな影響を及ぼしています。特に、都市部での高級品市場や不動産市場の活性化が顕著です。
富裕層が不動産や高級ブランド、レジャー施設に積極的に投資することは、業界の成長と新たな雇用創出に貢献しています。
一例を挙げると、ムンバイやデリーの高級住宅地での建設ラッシュは、建設業界やサービス業における雇用機会を増やしています。
しかし、富裕層への富の集中が進む一方で、経済的格差も顕著になってきました。
インドの所得上位1%にインド全体の所得の約23%が集中しているため、中間層や貧困層との格差はさらに広がっています。
この不均衡は長期的に見ると経済成長にも悪影響を与える可能性があり、貧困層の生活環境の悪化や所得の不平等を助長する要因となっています。
社会的影響
インド社会における富裕層の急増は、社会的な分断を深める要因となっています。
富裕層は最高水準の教育や医療サービスにアクセスできる一方で、貧困層はこれらの基本的なサービスにすら手が届いていないのが現状です。
特に、都市部においては富裕層が住む高級住宅地と、貧困層の居住区の間で生活水準の差が顕著になり、社会的な緊張を引き起こしています。
インフラや公共サービスの整備が遅れている地域では、富裕層がプライベートのリソースを利用できる一方、貧困層は基本的なサービスすら利用できない状況が改善できていません。
文化への影響
富裕層は、インドの伝統文化や宗教行事にも大きな影響を与えています。富裕層はディワリやホーリーといったインドの伝統的な祭りに多額の資金を投じ、豪華なイベントを開催します。
富裕層の投資によって地域経済が活性化する一方で、これらの行事が商業化されすぎるという声も少なくありません。
特に都市部では祭りの規模が大きくなっているため、文化的な意味合いよりもイベントとしての側面が強調されることが増えてきています。
ディワリとホーリーの具体的な内容は、以下の記事で解説しています。
参照:インド最大のイベント「ディワリ」って?祭りの内容や楽しみ方を紹介
参照:インドのカラフルな春の祭典ホーリー祭の歴史と魅力・注意点を徹底解説
インドの富裕層と海外移住
インドの富裕層は、積極的に海外移住を行っています。なぜインドの富裕層が海外移住するのか解説します。
インドの富裕層に人気の海外移住先
インドの富裕層は、資産保護や新たなビジネスチャンスを求めて海外移住を選択するケースが増えています。特に、イギリスやアメリカ、アラブ首長国連邦(UAE)といった国々が移住先として人気です。
これらの国々は富裕層に有利な税制や安定した経済環境、高い生活水準や優れたインフラを提供し、富裕層がより効率的に資産を運用するための条件が整っています。
そのなかでも、UAEは税制面での優遇が多く、税金を抑えたい富裕層にとって大きな魅力となっています。
グローバルなビジネスチャンスとの関連
インドの富裕層が海外移住を選択することで、グローバルなビジネスチャンスが拡大します。
特に、ヨーロッパやアメリカ、UAEなどでは資産運用や新規ビジネスへの投資機会が豊富に存在し、多様な収益源を確保できる点がメリットです。
イギリスやアメリカでは、スタートアップへの投資や不動産市場への参入が盛んで、これが富裕層の資産増加に貢献しています。
また、UAEは中東やアフリカ市場へのゲートウェイとしても機能し、インド国外の市場拡大を目指す企業家にとって理想的な拠点です。
海外移住はインドの富裕層にとってさらなる資産形成と国際的なビジネス展開のチャンスを広げる重要な戦略となっています。
インドの富裕層は国内市場の成長に欠かせない存在
インドの富裕層は、その急成長を背景に経済や社会、文化にさまざまな影響を与えています。富裕層のライフスタイルや消費行動は新たなビジネスチャンスを生み出し、地域経済を活性化させています。
しかし、それに伴って発生する貧困層との格差や社会的な課題については今後も注意が必要です。
これからもインドが発展し続けるためには、富裕層の役割はますます重要になるでしょう。インドの富裕層の影響力がどのように変化しどのような結果をもたらすのか、注視していく必要があります。