インドへの渡航を計画する際、予防接種は重要です。適切な予防措置を講じることで、滞在中の健康リスクを大幅に軽減できます。
インドは多様な感染症が存在する国なので、外務省も特定のワクチン接種を推奨しています。
その予防接種は渡航者の安全を確保し、充実したインド滞在を実現するために欠かせません。
本記事では、外務省が推奨する予防接種とインドの感染症、予防のコツについて解説します。安全にインドへ渡航したいと考えている人は、参考にしてください。
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外務省が推奨するインド渡航時の予防接種
日本からインドへ渡航する際、外務省から義務付けられている予防接種はありません。しかし、インドは感染症にかかりやすい国の1つなので、推奨されている予防接種はあります。
外務省が推奨している予防接種と、懸念される感染症について解説します。
外務省が推奨する予防接種一覧
外務省が推奨する予防接種には、以下のようなものがあります。
- A型肝炎
- B型肝炎
- 日本脳炎
- 破傷風
- 腸チフス
- 狂犬病
万が一感染したらどうなるか、それぞれの病気の特徴について解説します。
A型肝炎
A型肝炎は、A型肝炎ウイルスによって引き起こされる急性肝炎です。主に汚染された水や食品を口にして感染します。
症状 | 急な発熱、倦怠感、食欲不振、吐き気、腹痛、黄疸など。 |
潜伏期間 | 2~7週間 |
リスク | インド全土で感染リスクが高い |
B型肝炎
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝炎です。血液や体液を介して感染し、慢性化のリスクがあるのが特徴です。
症状 | 倦怠感、疲労感、食欲低下が1週間続いた後、典型的な症状として嘔気嘔吐、腹痛、黄疸(体が黄色くなること)が出現。 |
潜伏期間 | 60~150日(平均90日) |
リスク | インド全土で中等度から高度の感染リスクがある |
日本脳炎
日本脳炎は、蚊を媒介とするウイルス性脳炎です。稲作地帯や豚の飼育地域など、蚊が発生しやすい地域でリスクが高くなります。
症状 | 高熱、頭痛、嘔気、嘔吐など。次いで、意識障害、けいれん、異常行動、筋肉の硬直など。 |
潜伏期間 | 6~16日 |
リスク | モンスーン時期はインド全域(南部の一部地域では1年中) |
破傷風
破傷風は、破傷風菌が産生する毒素によって引き起こされる重篤な感染症です。土壌中に広く存在する菌が傷口から侵入することで感染します。
症状 | 筋肉のこわばり、けいれん、体のしびれや痛みなど。 |
潜伏期間 | 3~21日 |
リスク | インド全土で感染リスクがある |
腸チフス
腸チフスは、サルモネラ属のチフス菌によって引き起こされる感染症です。汚染された水や食品を口にして感染します。
症状 | 高熱、頭痛、全身のだるさ、高熱時に数時間現れる胸や背中、腹の淡いピンク色の発疹など。 |
潜伏期間 | 1~3週間 |
リスク | インド全土で感染リスクが高い |
狂犬病
狂犬病は、狂犬病ウイルスによって引き起こされる極めて危険な感染症です。犬などの動物に咬まれることで感染します。
症状 | 発熱、頭痛、全身倦怠、嘔吐、恐水症、けいれん、昏睡など。発症するとほぼ100%の致死率 |
潜伏期間 | 10日~3ヶ月(数年の場合もある) |
リスク | インド全土で高リスク |
インドでかかりやすい感染症
インド滞在中に注意すべき感染症は多岐にわたります。これらの感染症の特徴を理解し、適切な予防策を講じることがインドでの生活を充実させるために重要です。
特に注意が必要な感染症は、以下のとおりです。
- 消化器感染症
- デング熱・デング出血熱
- チクングニア熱
- マラリア
- 結核
- 狂犬病
上記の感染症はインドの気候条件や衛生状況、野生動物との接触機会などと密接に関連しています。
消化器感染症
インドで最も一般的な健康問題なのが消化器感染症です。主な原因は、不衛生な食品や水道水の摂取によるものです。
大腸菌などによる細菌性胃腸炎(下痢症)が特に多く、その他に以下のような感染症も報告されています。
- 腸チフス
- パラチフス
- 細菌性赤痢
- アメーバ赤痢
- コレラ
- A型肝炎
- B型肝炎
- E型肝炎など
コレラ菌が発生しているのは、西ベンガル州とカルナータカ州です。
一見すると危険だと感じるかもしれませんが、適切な予防策を講じた渡航者は、消化器感染症のリスクを大幅に低減できています。
デング熱・デング出血熱
デング熱は、インドで深刻な蚊媒介感染症の1つです。ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介され、高熱や頭痛、目の奥の痛み、筋肉痛などの症状を引き起こします。
雨季が終わって蚊が大量発生する8月〜11月頃に大都市を中心に流行します。
デング熱の予防には、蚊に刺されないための防虫対策が重要です。長袖・長ズボンの着用、虫除けスプレーの使用、蚊帳の利用などが効果的です。
日本での報告例はほぼありませんが、日本医師会によると毎年海外で感染し、帰国する人が200名ほどいます。
チクングニア熱
チクングニア熱も、デング熱と同様にネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介される感染症です。突然の高熱や関節痛が特徴的で、症状が長期化することがあります。
インドでは、特に南部の州を中心に流行が報告されています。高熱などの症状はありますが、外務省によると致死率は0.1%未満なので命に別状はありません。
予防策は基本的にデング熱と同じで、蚊に刺されないための防虫対策が中心となります。蚊の活動が活発な8月〜11月にかけては、特に注意が必要です。
インドへ渡航する際は現地での予防策を徹底し、症状が現れた場合は速やかに現地の医療機関を受診しましょう。
マラリア
インドのマラリアは、熱帯熱マラリアと三日熱マラリアの2種類です。マラリア原虫に感染したハマダラカに刺されることで発症し、発熱、寒気、頭痛、嘔吐、関節痛などの症状を引き起こします。
インドでは、特にオディシャ州やチャッティースガル州で熱帯熱マラリアの感染が報告されています。予防には、蚊に刺されないための対策が効果的です。
長袖や長ズボンの着用、蚊帳の使用に加え、医師の指示に従って適切な予防薬を服用することが重要です。
結核
結核は、インドで深刻な感染症の1つです。空気感染によって広がるため、人口の多いインドでは度々流行しています。
インドは世界最大の結核患者数を抱えていて、外務省は世界の感染者の約3分の1を占めると公式サイトに掲載しているほど注意が必要な感染症です。
2021年の結核の罹患率は、日本の約18倍でした。都市部の過密状態や医療体制の問題が、結核の蔓延に影響を与えています。
インド政府は結核撲滅に向けた取り組みを強化していて、2030年までに結核の根絶を目指しています。しかし、インドへ渡航する人にとっては、依然として注意が必要な感染症です。
狂犬病
狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染した動物に噛まれることで感染する病気です。インドでは、特に野良犬や野生動物との接触による狂犬病リスクが高くなっています。
インドは世界で最も狂犬病による死亡者が多い国の1つで、年間約2万人が犠牲になっているとされています。
これは、野良犬の数が多いことや、適切な医療へアクセスできない人が多いことが原因です。予防には、渡航前の狂犬病ワクチン接種が推奨されます。
また、現地では動物との接触を避け、万が一噛まれた場合は直ちに現地の医療機関を受診することが重要です。
致死率100%といわれる狂犬病の詳しい症状や予防策については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インドの野良犬は狂犬病のリスクがある|予防策と現地での対応を解説
インドで病気になった際に推奨される医療機関
インド滞在中に医療機関の受診が必要になった場合、信頼できる医療機関を受診することが重要です。外務省の公式サイトでは、各主要都市の推奨医療機関リストが公開されています。
紹介されている医療機関は、日本の医療水準に近い医療サービスを提供していて、言語面でのサポートも期待できます。
主要都市ごとの推奨医療機関について、それぞれ紹介します。
デリー
医療機関名 | Max Super Speciality Hospital |
所在地 | Press Enclave Road, Saket, New Delhi 110017 |
電話番号 | (011)-2651-5050救急番号:(011)-40554055 |
FAX | (011)-2651-0050 |
Webサイト | https://www.maxhealthcare.in |
グルガオン
医療機関名 | Medanta the Medcity |
所在地 | CH Bhaktawar Singh Road, Sector 38, Gurgaon, Haryana, 122001 |
電話番号 | (0124)-414-1414 |
Webサイト | http://www.medanta.org |
ムンバイ
医療機関名 | Breach Candy Hospital |
所在地 | 60-A, Bhulabhai Desai Road, Cumballa Hill, Mumbai 400026 |
電話番号 | (022)-2366-7788 |
Webサイト | http://www.breachcandyhospital.org |
コルカタ
医療機関名 | Apollo Gleneagles Hospitals |
所在地 | 58, Canal Circular Road, Kolkata |
電話番号 | (033)-2320-3040、(033)-4420-2122 |
FAX | (033)-2320-5184 |
Webサイト | https://www.apollohospitals.com/locations/india/kolkata |
チェンナイ
医療機関名 | Apollo Hospital, Greams Road, Chennai |
所在地 | No.21, Greams Lane, Off Gream Road, Chennai 600 006 |
電話番号 | (044) 2829-0200 / 2829-3333 |
FAX | (044) 4212-2120 |
Webサイト | https://chennai.apollohospitals.com/hospitals/greams-road/ |
ベンガルール(バンガロール)
医療機関名 | Sakra World Hospital |
所在地 | SY No 52/2 & 52/3. Devarabeesanahalli, Varthur Hobli, Bengaluru, 560103 |
電話番号 | (080)-4969-4969救急番号:(080)-4962-4962 |
Webサイト | https://www.sakraworldhospital.com/ |
ジャイプール
医療機関名 | Fortis Escorts Jaipur Hosptal |
所在地 | Jawaharlal Nehru Marg, Malvia Nagar, Jaipur, RJ 302017 |
電話番号 | (0141)-254-7000 |
Webサイト | http://www.fortishealthcare.com/india/fortis-escorts-hospital-in-jaipur-rajasthan |
各都市には、他にも外務省が推奨する医療機関があります。詳しくは外務省の公式サイトをご確認ください。
子供がインドの学校に入学する際に必要な予防接種
インドの学校に子供を入学させる場合、義務化された予防接種はありません。インドでは、以下の予防接種を受けられます。
- BCG
- ポリオ(経口)
- DPT
- 麻疹
- MMR
- B型肝炎
- 腸チフス
- インフルエンザ菌b型
インドでは、BCG(結核)、DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風)、経口ポリオ、MMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹)、B型肝炎などの予防接種を出生後から受けられます。
日本の予防接種とインドの予防接種スケジュールは異なる場合があるため、入学前に学校の要求事項を確認し、必要に応じて追加接種を検討しましょう。
インドで感染症を予防するためのコツ
インド滞在中に感染症を予防するためには、日常的な注意が重要です。特に効果的な予防のコツをいくつか紹介します。
飲食や衛生管理
インドでは生水や氷、生野菜や皮をむかない果物の摂取を避けましょう。喉が渇いた際は市販のミネラルウォーターを利用し、飲食店で出される水も避けた方が無難です。
食事は十分に加熱されたものを選び、ホテルやレビュー評価の高い店を利用すると衛生管理が行き届いている可能性が高くなります。
また、こまめな手洗いや消毒を心がけましょう。特に、食事前や公共の場所から戻った後は重要です。除菌シートを携帯しておくと安心できます。
虫や動物対策
長袖や長ズボンの着用、虫除けスプレーの使用や蚊帳の利用など、蚊に刺されないための対策を講じましょう。
インドは日本よりも気温が高くなることがあるので、薄着になる際は虫除けスプレーを定期的にかけておくと蚊に刺される心配がありません。
また、野良犬や野生動物との接触は絶対に避けましょう。万が一噛まれた場合は直ちに傷口を洗い流し、医療機関を受診してください。
予防接種や保険
インドへの渡航前に必要な予防接種を受け、滞在中も追加接種が必要な場合は現地の医療機関で適切に対応します。
医療機関によって対応できる言語などが異なるので、事前に滞在先の医療機関を調べておくと安心です。
渡航する際は、万が一の際に備えて海外旅行保険に加入しておきましょう。十分な補償内容の保険に加入することで、急な入院の際にも手厚い保証を受けられます。
万が一の対策を日常的に実践することで、感染症のリスクを大幅に低減できます。インド滞在中は常に感染症リスクを意識し、適切な予防策を講じてください。
まとめ:インド渡航時は外務省が推奨する予防接種を受けよう
インド渡航時の予防接種は、安全で充実した滞在に欠かせない準備です。適切な予防措置を講じることで、現地での健康リスクを大幅に軽減できます。
外務省が推奨する予防接種を本記事で紹介しているので、インドへ渡航する予定がある人は必ず確認しましょう。
子供の学校入学や長期滞在の場合は、追加の予防接種や健康管理が必要となる場合があります。事前に現地の情報収集を行い、必要に応じて現地の医療機関とも連携することが大切です。
適切な予防接種と注意深い行動を徹底すれば、インドの豊かな文化や歴史、多様な体験を存分に楽しめます。健康管理に十分配慮しつつ、インドならではの貴重な経験を最大限に満喫しましょう。
参考:監修者が渡印前に行った予防接種の種類とスケジュール