インドの経済を支える3大財閥のタタ・グループは、インド国内外で幅広い事業を展開しています。その事業内容は多岐にわたり、自動車や鉄鋼、ITサービスなど、多くの産業にわたります。
今回はタタ・グループの歴史や主要事業、さらに日本進出の詳細や最新情報を紹介するので、インドの財閥や日本に進出しているインド企業に興味のある人は参考にしてください。
インドのタタ・グループの歴史
タタ・グループの起源は1868年に遡ります。この年、創設者のジャムシェトジー・タタがインドのムンバイ(当時はボンベイ)で綿織物事業を始めました。
インドはまだイギリスの植民地支配下にあったため、経済活動に制限があった時期です。しかし、ジャムシェトジー・タタは独自のビジョンを持ち、インドの産業基盤を強化することを志しました。
タタ・グループ創設者ジャムシェトジー・タタの理念
ジャムシェトジー・タタはただの実業家ではなく、イギリスから独立後のインドの未来を見据えていました。
そのため、当時のインドにはなかった本格的な産業を興すことで、経済的自立を促進しようと考えます。
初期のタタ・グループは単なる利益追求にとどまらず、インド全体の発展を目指すという社会的使命を掲げて綿織物事業を開始しました。
1870年代には綿紡績工場を建設し、ジャムシェトジー・タタはインド有数の資本家へと成長していきます。
インド初の鉄鋼会社タタ・スチールの設立
インドの発展に貢献するというビジョンの一環から、タタ・グループはインド初の鉄鋼製造会社「タタ・スチール」を設立しました。
鉄鋼業はインドの産業化において極めて重要な役割を果たすと、ジャムシェトジー・タタが考えたためです。
当時、インドには鉄鋼を自国で生産する能力がなく、鉄鋼の輸入に依存していました。ジャムセットジーはこの状況を変えるために、国内で鉄鋼を生産する計画を立てます。
1907年、ジャールカンド州のサクチ(現ジャムシェドプール)にタタ・スチールの工場が設立されました。これは、インドの産業史における画期的な出来事になります。
タタ・スチールの工場ができたインド国内では、鉄鋼が生産できるようになったため、国の経済基盤を強化しました。
また、ジャムシェドプールはインド初の工業都市としても知られ、都市の設計には福祉や教育、医療施設が含まれてます。
タタ・グループの多角化と成長
タタ。スチールの成功を受けて、タタ・グループは他の産業にも積極的に進出しました。
1904年に創設者のジャムシェトジー・タタが亡くなると、長男のドラブジー・タタが事業を引き継ぎます。ドラブジー・タタはインド国内で以下のような事業を展開しました。
- 電力
- 化学
- 金融
- 不動産
- 自動車
1910年にはインド初の水力発電所を設立し、タタ・パワーが誕生しました。この発電所は、ムンバイとその周辺地域への電力供給を担い、インドの工業化を支える重要なインフラとなります。
さらに、1932年にはタタ・エアラインズ(現エア・インディア)が設立され、インドの航空業界に革命をもたらしました。
このように、タタ・グループは新しい産業分野への挑戦を続け、インドの近代化に大きく貢献しています。
第二次世界大戦後のインド独立と国際化
第二次世界大戦が終わりインドがイギリスから独立すると、タタ・グループはさらなる拡大を遂げました。
既存の事業を強化する一方で、新興産業への参入も積極的に進めます。特に注目すべきは、1968年に設立されたタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)です。
TCSはインドのソフトウェア産業を牽引する企業で、世界中でITサービスを提供する国際企業へと成長しました。
また、タタ・モーターズやタタ・コンシューマー・プロダクツなど、新しいビジネス分野への進出も積極的に行われます。
これらの企業の成功によってタタ・グループは国内外での影響力を強化し、インドを代表する多国籍企業グループとしての地位を確立しました。タタ・グループの主要産業については、以下の見出しで解説します。
タタ・グループの主要事業
現在のタタ・グループでは、以下の主要産業が注目されています。
- タタ・スチール
- タタ・モーターズ
- タタ・コンサルタンシー・サービシズ
- タタ・コンシューマー・プロダクツ
世界で活躍するタタ・グループの有名企業を紹介します。
タタ・スチール
タタ・スチールはタタ・グループの中核を成す企業の1つで、インド国内のみならず国際市場でも大きな影響力を持っています。
タタ・スチールは、設立当初からインドの工業化に大きく貢献してきました。特に、サクチ(現ジャムシェドプール)工場は、インドの鉄鋼産業の歴史を作りました。
サクチ工場の成功によってタタ・スチールは国内の鉄鋼産業の中心企業となります。
2007年にはイギリスの大手鉄鋼メーカーだったコーラス社を買収し、欧州市場への本格的な進出を果たしました。
この買収は、当時のインド企業による最大規模の国際買収で、タタ・スチールのグローバルな競争力を大幅に向上させました。
現在、タタ・スチールの製品は、自動車や建設、家電など多岐にわたる産業で使用され、世界中の企業に供給されています。
タタ・モーターズ
タタ・モーターズは、タタ・グループを代表する自動車製造会社で、1945年に設立されました。
設立当初は機関車の製造に特化していましたが、徐々に乗用車や大型トラックの製造にも乗り出し、現在ではインド最大級の自動車メーカーに成長しています。
タタ・モーターズが一躍世界的な注目を浴びたのは、2008年に「世界で最も安価な車」として知られるタタ・ナノを発表した時です。
タタ・ナノはインドの低所得層向けに開発され、「10万ルピー(約18万円※1ルピー=1.75円換算)」という破格の値段は当時の自動車市場に大きな衝撃を与えました。
また、タタ・モーターズは英国の高級車ブランド、ジャガー・ランドローバー社を買収し、グローバル市場での競争力を大幅に強化しています。
この買収によってタタ・モーターズは高級車市場にも進出し、製品ラインナップの多様化と技術力の向上を実現しました。
タタ・コンサルタンシー・サービシズ
タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は1968年に設立されたインド最大のITサービス企業で、タタ・グループの中でも特に高い収益を上げている企業の1つです。
タタ・コンサルタンシー・サービシズは、以下のような幅広いITサービスを提供し、世界中の多くの企業との提携を通じて、インドのIT産業を牽引しています。
- ソフトウェア開発
- システム統合
- 業務アウトソーシング
- コンサルティング
タタ・コンサルタンシー・サービシズの成功の要因は、その革新的なサービスと顧客ニーズに対する柔軟な対応力にあります。特に、金融や保険、教育といった産業で高い評価を受けてきました。
TCSグローバルの銀行&金融業向けサービスは、全体売上の3割以上を占めていて、最大の事業部門です。日本のメガバンクを含む世界20カ国の銀行のうち、14の銀行が顧客になっています。
タタ・コンサルタンシー・サービシズはAI(人工知能)やクラウドコンピューティング、ビッグデータ解析などの分野にもいち早く対応してきました。
現在のタタ・コンサルタンシー・サービシズは、世界中に10万人以上の従業員を雇用しています。
タタ・コンシューマー・プロダクツ
タタ・コンシューマー・プロダクツは、タタ・グループの食品および飲料事業を統括する企業です。
特に、「タタ・ティー」と「タタ・ソルト」はインドだけではなく、日本を含む世界中で使用されている代表的なブランドです。
タタ・ティーは、インド国内の紅茶市場においてトップシェアを誇る人気ブランドです。インドでは、3世帯に1世帯は朝起きるとタタ・ティーを飲んでいるといわれています。
2000年にはイギリスの紅茶ブランド「テトリー」を買収し、国際市場にも進出しました。テトリーは、現在でもタタ・ティーの主要ブランドとして世界中で販売されています。
さらに、タタ・コンシューマー・プロダクツは大手コーヒーチェーンのスターバックスとの合弁事業を通じて、インド国内でのコーヒーチェーン展開を進めています。
この合弁事業によってインド市場でのスターバックスの急速な拡大が実現し、タタ・グループの食品および飲料事業における競争力を強固にしました。
海外からも評価されたタタ・モーターズの躍進
タタ・モーターズはインド国内での成功にとどまらず、海外市場でもその存在感を強く打ち出してきました。タタ・モーターズの国際的な事業展開と、株式の上場廃止について解説します。
タタ・モーターズの事業展開
タタ・モーターズはインド国内の自動車市場で長年にわたり大きなシェアを占めるとともに、積極的に海外市場への進出を図ってきました。
アジアやヨーロッパといった多くの地域で事業を展開しており、特に、2008年に行われた英国の高級車ブランド、ジャガー・ランドローバー社の買収は大きな話題を集めました。
この戦略的買収は、タタ・モーターズがグローバル企業としての地位を確立する重要な要因となっています。
また、タタ・モーターズは電動化戦略にも積極的に取り組んできました。インド国内の電気自動車(EV)市場でタタ・モーターズは先駆者的な役割を果たします。
インドのモディ首相が掲げる「メイク・イン・インディア」政策やEV普及政策と連携し、タタ・モーターズはEVインフラの整備や電池技術の開発にも注力しています。
2022年に発売したタタ・ネクソンEVなどのモデルを通じて環境に配慮した持続可能な移動手段を提供し、環境負荷の低減にも貢献しているのが特徴です。
モディ首相が掲げる「メイク・イン・インディア」政策の詳細は、以下の記事で解説しています。
参照:インドのモディ首相が考える政策と2024年選挙|大統領との違いも解説
タタ・モーターズが上場廃止になった理由
タタ・モーターズはニューヨーク証券取引所に上場(コード:TTM)していましたが、2023年1月23日(月)付で同市場からの上場を廃止しました。
上場廃止の背景には、タタ・モーターズが経営資源をより効率的に活用し、成長戦略を明確にする必要性があったためです。
特に、同社はインド国内市場の強化とEV市場への集中投資を経営の最優先事項と位置づけました。
ニューヨーク証券取引所への上場維持にはコストと労力がかかるため、同社の成長のためにこれらのリソースを国内市場およびEV事業に集中させることがより効果的だと判断されました。
この戦略的判断により、タタ・モーターズはグループ全体の効率性を向上させ、株主価値の最大化を目指しています。
タタ・グループの日本進出
タタ・コンサルタンシー・サービシズは、タタ・グループの中でも特にグローバルな展開が進んでいる企業の1つで、ITサービスやコンサルティングを提供しています。
タタ・コンサルタンシー・サービシズは2004年にタタ・コンサルタンシー サービシズ・ジャパンを設立、2012年に三菱商事株式会社との合弁で日本 TCS ソリューションセンターを設立しました。
2014年にタタ・コンサルタンシー サービシズ・ジャパン 株式会社、株式会社日本・TCS ソリューションセンター、株式会社アイ・ティ・フロンティアを統合し、「日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社」を設立しました。
日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社も三菱商事株式会社との合弁会社で、株主はタタ コンサルタンシー サービシズ(66%)、三菱商事株式会社(34%)です。
従業員は2024年時点で約3,700人、代表取締役社長には現タタ・コンサルタンシー・サービシズ代表取締役社長のサティシュ・ティアガラジャン氏が就任しています。
以来、東京、大阪、名古屋にオフィスを構え、日本企業に向けたITサービスの提供を行ってきました。
特に、金融、保険、通信、教育分野での実績が豊富で、多くの日本企業がタタ・コンサルタンシー・サービシズの技術を採用しています。
インドのタタ・グループは世界から注目を浴びる一大財閥
タタ・グループはインド国内のみならず、世界中で高く評価されているグローバル企業です。
その成功の背景には、常に革新性と持続可能性を追求する姿勢があり、これにより同社はグローバルな舞台での競争力を強化してきました。
近年はITソリューションに特に力を入れていて、日本でも多くの企業がタタ・コンサルタンシー・サービシズのサービスを採用しています。
今後も躍進を続けるインドの財閥、タタ・グループの動向からは目が離せないでしょう。