インドで起業するメリットデメリットは?起業する際の形態と手順も解説

近年、インドの経済成長が著しいといわれていて、日本から進出しようと考える人も増加する一方です。しかし、日本と違ってインドには独自のメリットデメリットや、起業時の手順が存在します。

そこで今回は、インドで起業したい人向けに、上記の解説や成功事例を紹介します。

インドの基本情報を紹介

インドのタージマハル

まずはインドの基本情報を紹介します。これからインドで起業しようと考えている人は、改めてインドのことを理解しておきましょう。

インドの人口・公用語・宗教

2023年時点でインドは中国を抜き、世界で1番人口が多い国になりました。国連の統計によると、2023年時点で14億2862万7663人がインドに住んでいます。

この人口の多さは、インド市場の大きな強みとなっています。多様な消費者層が存在し、さまざまなニーズに対応できる商品やサービスの提供が求められるためです。

インドの公用語は1つではない

インドの公用語はヒンディー語と英語ですが、インドは多言語国家なので地域によって多くの異なる言語が使われています。インドで使われる言語の一例を紹介します。

  • ベンガル語
  • マラーティー語
  • テルグ語
  • タミル語

起業する際は、拠点となる地域に合わせた言語を習得しておく必要があります。インドの公用語については、以下の記事で地域別の公用語を紹介しています。

参照:インドの公用語はヒンディー語?州ごとの公用語と多言語事情を解説

インドは多宗教でもある

宗教の面でもインドは非常に多様です。ヒンドゥー教が約80%を占める最大の宗教ですが、イスラム教、キリスト教、シク教、仏教、ジャイナ教なども広く信仰されています。

この宗教の多様性は、ビジネスにおける製品開発やサービス提供の際に考慮すべき重要な要素です。

たとえば、宗教的な行事や休日に合わせたマーケティングキャンペーンや、宗教的な禁忌を考慮した製品設計が必要です。

インドの宗教については、以下の記事で気をつけるポイントなどを解説しています。

参照:インドの宗教と進出の関係について解説!気をつけるポイントについても紹介

インドの主要産業

インドの主要産業は、以下のとおりです。

  • IT産業
  • 製造業
  • 農業
  • サービス業

起業する際の業種選びに重要なので、それぞれの産業の特徴を解説します。

IT産業

インドのIT産業は世界的に有名で、特に以下の都市には世界中のIT企業が集まっています。

  • ベンガルール(バンガロール)
  • ハイデラバード
  • チェンナイ
  • プネー
  • グルガオン

インドのIT企業は、ソフトウェア開発やITコンサルティング、アウトソーシングサービスなどを提供し、世界中の企業と取引を行っています。

特に、ベンガルールは「インドのシリコンバレー」として世界のIT企業に知られ、多くのグローバル企業がオフィスを構えています。

このインドの急速なIT産業の成功は、高度な技術力を持つエンジニアの豊富さと、英語がビジネス言語として広く使われているためです。

ベンガルールの基本情報や進出をおすすめする理由は、以下の記事で詳しく解説しています。

参照:【進出必見!】インドのバンガロールを解説!進出をおすすめする理由も紹介

製造業

インドの製造業は国を挙げて成長を促進している重要産業です。特に、自動車産業や電子機器産業は大きな進展を遂げています。

インドは自動車生産において世界でも有数の国なので、国内外の自動車メーカーが工場を設立しています。電子機器産業も重要になっていて、スマートフォンや家電製品の製造が盛んです。

農業

農業は古くからインド経済の基盤的な産業で、多くの人々の生活を支えてきました。

米、小麦、綿花、茶、砂糖などがインドの主要な農産物で、国内消費のみならず輸出も行われています。近年、農業技術の進歩と収入格差を目的とした政府の支援などにより、農業生産性が向上しています。

インドの農業については、以下の記事で問題点や生産量などを解説しているので参考にしてください。

参照:インドの農業は儲からない?農家の貧困状況と政府の政策について解説

サービス業

サービス業もインド経済において重要な役割を果たしています。特に小売業や銀行業、観光業や医療サービスなどが成長しています。

インドの都市部では、大型のショッピングモールやスーパーマーケットが急増している影響で、消費者の購買行動が変化してきました。

経済成長にともなう人口増加だけではなく、海外からの観光客が増加しているため、インド国内での購買意欲はさらに高くなると予測されています。

インドで起業する際は、このような産業構造を理解しなければビジネスの成功には至りません。

インドで起業するメリット

インドの製造業

日本ではなくインドで起業すると、以下のようなメリットが得られます。

  • 持続的な経済成長
  • 豊富な労働人口
  • 低コスト

特に、人口減少にともなう労働者不足が深刻化し始めている日本人にとって、労働力が豊富なインドでの起業は大きなメリットになります。

持続的な経済成長

インドの経済は過去数十年にわたって、持続的な成長を続けています。ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、2023年のGDP成長率は8.2%と高水準を記録しました。

内閣府が発表した日本の2023年の実質GDP成長率は1.6%だったので、インドの経済成長が順調なことが分かります。インド政府は経済改革を推進し、ビジネス環境の改善に取り組んでいます。

特に「Make in India」や「Digital India」などの経済政策は、外国企業やスタートアップの参入を後押ししてきました。

成長途中のインド市場は、新規事業の設立に大きなメリットとなるため、日本からも進出する会社が増加しています。

参照:内閣府「令和6年度(2024年度)政府経済見通しの概要」

豊富な労働人口

インドは世界でも有数の若い労働人口を持つ国です。インドの人口は約65%が35歳以下なので、日本と異なって若い労働者が多く存在します。

特に、技術系の教育を受けた人材が豊富で、IT産業やエンジニアリング分野において優秀な人材を確保しやすい点がメリットです。

インドの若くて優秀な労働力は、国際市場における競争力を高める要因となっています。インドの人口推移と雇用については、以下の記事で詳しく解説しています。

参照:インドの人口が中国を抜いて世界最多に!人口の推移と少子化について解説

低コスト

インドでのビジネス運営コストは他の先進国と比べて低いのがメリットです。特に、オフィススペースの賃貸費用や人件費が安いため、スタートアップにとってはビジネスをしやすい環境です。

例えば、ベンガルールやハイデラバードなどのIT都市では、シリコンバレーや東京と比べてオフィス賃料が非常に安価になっています。

さらに、IT業界や製造業では、インドの低コスト構造が競争優位性を持つための重要な要素です。その結果、ビジネスの収益性を高められます。

インドで起業するデメリット

悩みを抱える起業家

インドで起業する際は、以下のようなデメリットも把握しなくてはいけません。

  • 時間に対する感覚が柔軟
  • インフラが未発達
  • 根強いカースト制度

時に、根強いカースト制度はインドでの雇用に大きく関わる部分です。

時間に対する感覚が柔軟

インドでは、時間に対する感覚が日本とは大きく異なります。ビジネスの場面でも、約束の時間に遅れることや計画したスケジュール通りに進まないことが一般的です。

これは、インドの文化的背景や社会的習慣が要因です。そのため、プロジェクトの進行や納期が遅れるリスクがあります。

この問題を解決するためには、柔軟なスケジュール管理が重要です。例えば、余裕を持ったスケジュールを設定し、遅延が発生した場合でも対応できるような時間を設ける必要があります。

現地のパートナーやスタッフと信頼関係を築くことも、時間管理においては効果的です。

インフラが未発達

インドの一部地域ではインフラが未発達なので、ビジネス運営においてさまざまな課題が発生するかもしれません。特に、交通網や電力供給の面での問題があります。

インドでは交通渋滞が頻繁に発生するので、物流の遅延やコストの増加が懸念されます。また、電力供給が不安定なので、停電が頻発する地域もあります。

インドのインフラ問題は、生産性の低下やビジネス運営の効率に大きな影響を与えるため、企業は適切な対策を講じることが重要です。

例えば、自家発電設備の導入や物流パートナーの選定を慎重に行うことなどが求められます。また、都市部やインフラが整備された地域への進出を検討することも1つの方法です。

根強いカースト制度

インドには根強いカースト制度が存在し、ビジネスにおいてもその影響は深刻です。カースト制度はインド社会の伝統的な階層構造で、個人の職業や社会的地位に深い影響を与えます。

ビジネスの場面では、採用や社内の人間関係、取引先との関係などにおいてカースト制度の影響が見られます。

企業はカーストにもとづく差別を避け、公正な雇用政策を実施することが重要です。採用においては、階級ではなく能力や適性を重視することが求められます。

また、社内教育やトレーニングを通じて、カースト制度に対する理解と意識を高めることが有効です。

さらに、現地のビジネスパートナーや取引先との関係においても、カーストの影響を考慮しつつ、文化的な敏感さを持って対応しましょう。

インドのカースト制度を理解するために、以下の記事を参照してみてください。

参照:インドのカースト制度とは?進出・経営への影響や他のメリットについても

インドで法人を設立する手順

インドの若いビジネスマン

インドで法人を設立する手順は、以下のとおりです。

  1. 取締役登録の準備
  2. 商号の申請・予約
  3. 基本定款/付属定款の作成
  4. 登記住所の決定
  5. 会社設立
  6. 第一回取締役会開催
  7. 株式発行
  8. 事業開始届の提出

インドで法人を設立する際は、現地の法律や規制に詳しい専門家のサポートを受けることで難しい手続きをクリアできます。

ただし、依頼する人は信頼できる人を選定しないと、後でトラブルになりやすくなるため注意しましょう。

取締役登録の準備

インドで起業する際、全取締役は基本税務番号(PAN)の取得が法律で義務付けられています。

また、会社設立時には最低1名の取締役の電子署名証書(DSC)が必要で、設立後は全取締役がDSCを取得する必要があります。

そのため、PANとDSCを同時に取得するのが一般的です。これらの手続きには日本とインド両国での準備が必要で、時間がかかります。

書類準備だけで1ヶ月以上要することもあるため、専門家に依頼することで時間と労力を節約でき、手続きの誤りも防げます。

商号の申請・予約

インドで会社を設立する際、会社登記局への商号の申請も必要です。申請が却下される可能性もあるため、最大4つの会社名候補を用意し、1回の申請で2つの社名まで申請できます。

親会社や既存の会社と類似した名称を使用する場合は追加の手続きが必要です。親会社の場合は取締役会決議が、既存の会社の場合はNOCレターとその取締役会議事録の写しが求められます。

書類に不備がなければ、申請から1〜2週間程度で結果が出ます。

商号の予約が認められた場合は20日以内に会社を設立する必要があるため、十分な準備と迅速な対応が求められるので注意しましょう。

基本定款/付属定款の作成

インドで会社を設立するためには、基本定款(MOA)と付属定款(AOA)の2種類の定款が必要です。

MOAには会社の基本情報や事業目的、株式に関する事項を記載し、AOAには会社運営に関する詳細な規定を記します。AOAについては株主総会や取締役会、会計などの規定を記載します。

登記住所の決定

登記住所も重要です。公証済み賃貸契約書のコピー、取締役決議書、公共料金明細など、特定の書類が必要となります。

設立時に詳細な住所が決まっていない場合でも、登記する州さえ決定していれば登記は可能ですが、登記完了後15日以内に具体的な住所を会社登記局へ届け出る必要があります。

会社設立

会社登記局へ法人登記申請する際、会社の登記住所がある州で定められた印紙税を納付しなくてはいけません。登記が完了すると、登記証明書(COI)が発行されます。

この証明書に記載された日付から、会社は正式に法人として事業を開始できます。

法人格を得ることで、会社は従業員の雇用や外国人(日本人を含む)のための就労ビザを取得可能です。これにより、事業運営を開始する準備が整うでしょう。

さらに、会社登記と同時に、インド所得税局から重要な税務番号が割り当てられます。具体的には、法人の基本税務番号(PAN)と源泉徴収番号(TAN)です。

これらの番号は、今後の税務手続きに重要な番号となります。この登記プロセスを経て、インドでの会社設立が正式に完了し、事業活動を開始する法的基盤が整います。

第1回取締役会開催

インドで会社を設立した後、30日以内に第1回取締役会を開催します。この取締役会は会社運営の正式な開始を意味する重要な会議です。

第1回取締役会では、まず監査役の選任が行われます。監査役は会社の財務状況を監査し、適正な会計処理を確保する重要な役割です。

次に、会社の資金管理に不可欠な銀行口座の開設が決定されます。この決定にもとづいて、実際の口座開設手続きが進められることになります。

この第1回取締役会は、会社が法人として正式に活動を開始するための重要な出発点となります。ここでの決定事項にもとづいて実際の事業運営が始まるためです。

また、この会議の議事録は重要な法的文書となるため、適切に作成し保管する必要があります。多くの場合、この議事録は今後の各種手続きの際に求められます。

株式発行

会社設立後、第1回取締役会に続いて第2回取締役会を開催します。この会議では、株式の割り当てや発行に関する重要な決定が行われます。

具体的な内容は、以下のとおりです。

  • 発行する株式の数
  • 種類
  • 各株主への割り当て方法など

この決定にもとづき、会社設立登記後60日以内に実際の株式割り当てを行う必要があります。株式割り当ては会社の所有構造を確立するために重要です。

株式を発行した後は、30日以内に「株式割り当てに関する報告」をインド準備銀行(Reserve Bank of India)へ提出しなければなりません。

RBIへの報告には割り当てられた株式の詳細、株主の情報、投資額などを含める必要があります。これらの手続きを適切に行うことで、会社の資本構造が正式に確立され、外国投資に関する法的要件も満たせます。

事業開始届の提出

会社設立登記が完了した後、事業開始届(INC-20A)の提出を行います。この届出は会社登記局へ、設立登記完了後60日以内に提出しなければなりません。

この INC-20A の提出は単なる形式的な手続きではなく、実際の営業活動を開始するための法的な許可を得るために重要です。この届出を提出して初めて、会社は正式に営業活動を開始できます。

インドビジネスの成功事例

打ち合わせをする起業家

インドでのビジネスに成功した日本企業を紹介します。

  • 自動車メーカー:スズキ
  • 電気機器メーカー:明電舎

それぞれどのような取り組みをしたのか、詳しく解説します。

自動車メーカー:スズキ

スズキはインド市場に早くから参入し、成功を収めています。特に小型車市場での強みを活かし、現地のニーズに応える製品を提供しています。

早期参入と市場理解

スズキは1980年代にインド市場に参入し、現地の自動車メーカーであるマルチ・ウドヨグと合弁会社を設立しました。

これにより、インド市場の特性や消費者のニーズを深く理解できるようになり、インドに最適な戦略を立てることを可能にしています。

その結果、2017年の販売台数は164万3467台で、乗用車市場の50%を占めました。

小型車市場での強み

インドの自動車市場では、小型車の販売が重要です。スズキは、マルチ・スズキブランドとしてインド国内で信頼性が高いだけではなく、燃費が良くて価格も手頃な小型車を提供しました。

特に、マルチ800やスウィフトなどのモデルは、インドの消費者に広く受け入れられています。

現地生産とコスト競争力

スズキは現地生産に注力し、製造コストの削減と効率的な生産体制を確立しました。これにより、価格競争力を高めて市場シェアを拡大してきました。

また、現地の部品供給業者と強力なネットワークを構築し、部品調達コストを抑えていることも強みの1つです。

電気機器メーカー:明電舎

電気機器メーカーの明電舎は住友グループ傘下企業で、変圧器メーカーとしては国内でトップクラスの実績を誇っています。以下、明電舎の成功事例を詳しく解説します。

インドの電力インフラへの貢献

明電舎は、インドの電力インフラの改善に貢献する製品とサービスを提供しています。

特に、日本でトップシェアを誇る変圧器や配電盤などの電力機器は、インドの電力供給の安定化に大きく貢献しています。

明電舎は、インド政府が進めるインフラ整備計画と連携することで、需要を捉えた製品展開が功を奏しました。

高品質な製品と技術力

明電舎は、高品質な製品と高度な技術力を持つことで知られています。インド市場においても、その品質と信頼性が評価され、公共事業や大規模プロジェクトに採用されてきました。

特に、耐久性や効率性に優れた製品は、インドの高温や多発する自然災害などの過酷な環境条件に適していると評価されています。

現地パートナーとの協力

明電舎は、インド政府や現地パートナーと協力関係を築くことで、ビジネスを拡大しています。

現地企業との合弁事業や技術提携を通じて市場参入のハードルを低くし、現地の需要に応じた製品開発とサービス提供を実現しています。その結果、インド市場での競争を優位にすることに成功しました。

まとめ:インドで起業するのは難しいがリターンが大きい

インド企業の会議

インドで起業するためには、カースト制度への理解や時間のルーズさなど、日本と異なる難しさがあります。また、法人登記の手続きも複雑なので、信頼できる会社や人物に手続きを依頼する必要もあります。

その難しさを差し引いても、成長を続けるインド市場は魅力的なマーケットです。企業として収益を増やして成長していきたいと考えている人は、インド進出を検討してみましょう。