スラム街と聞くと、危険で不衛生な場所というイメージを持つかもしれません。しかし、インドのスラム街で暮らす人々は必死に生活し、希望を胸に抱いています。
本記事では、インドのスラム街の現状や課題、そしてそこに住む人々の生活を紹介します。
特に、インドのスラム街から世界へはばたいたシンデレラの話は、多くの人に知ってもらいたいサクセスストーリーです。
記事の監修者
インドのスラム街の現状
まずはインドのスラム街の現状について解説します。
- インドには数多くのスラム街がある
- 多くのスラム街は国有地にある
スラム街は世界中にありますが、インドのスラム街の現状について解説します。
インドには数多くのスラム街がある
スラム街とは、非常に貧しい人々が集まって住んでいる地域のことです。1980年代には約2,700万人だったインドのスラム街の人口は、2010年代には7,000万人に達しました。
インドには非常に多くのスラム街が存在し、現在では1億人もの人がスラム街で生活しているといわれています。
これらのスラム街は過密状態で、家が非常に狭くて多くの人々がひしめき合って住んでいます。そのため、衛生環境が非常に悪く、トイレやきれいな水が不足しているのが現状です。
多くのスラム街はインドの国有地にある
インドのスラム街の多くは、政府が所有している土地、つまり国有地に建てられています。このため、そこに住む人々は、正式な権利を持っていません。
例えば、自分の家や土地を持っていると法的に認められないため、住民たちはいつでも立ち退きを迫られる危険があります。
政府が都市開発計画を進める際、スラム街の土地がその計画に含まれていることが多いのが現状です。
その場合、スラム街の住民たちは立ち退きを要求され、新しい住居を見つけなくてはいけません。
しかし、新しい住居が見つからなかったり、住む場所がなくなったりすることも多く、住民たちはさらに厳しい生活を強いられることがあります。
こうした問題は、スラム街の住民たちにとって非常に大きな課題です。彼らは法的な保護を受けられないため、安定した生活を送ることが難しくなっています。
インドの有名なスラム街3選
インドには数多くのスラム街がありますが、特に有名なスラム街を3つ紹介します。
- ダラヴィ(ムンバイ)
- アンナガル(チェンナイ)
- ランガマタプール(コルカタ)
特に、ムンバイにあるダラヴィは、アジア最大といわれているスラム街です。
ダラヴィ(ムンバイ)
ダラヴィは、ムンバイに位置するインド最大のスラム街です。推定人口は約100万人に達し、狭い土地に多くの人々が密集して暮らしています。
ダラヴィの住民たちは、リサイクル産業やその他の労働に従事しながら生計を立てています。
地域の衛生環境は劣悪でトイレや水道などの基本的なインフラも不足していますが、住民たちは協力し合いながら生活しています。
ノチクパム(チェンナイ)
ノチクパムは南インドにあるチェンナイのスラム街で、有名なマリーナビーチのすぐそばにあります。ノチクパムはムンバイのダラヴィほど大規模ではありませんが、住民たちが直面する問題は同様に深刻です。
日本人が用もなく足を踏み入れてしまうと、強盗や暴行などを受けるケースがあるので、立ち入る際は十分に注意しましょう。
多くの家庭が劣悪な住環境で生活しており、清潔な水やトイレの設備も不足しています。
ジャキーラ(デリー)
ジャキーラはデリーに位置するスラム街で、主に北インドの貧困層が約70,000人住んでいます。この地域は、洪水や暴風雨などの自然災害に見舞われるため、住民たちの生活は非常に不安定です。
ジャキーラの住民たちは、手工業や非公式な労働市場で働きながら生計を立てていますが、収入が不安定で多くの家庭が貧困に苦しんでいます。
そのため、デリーで多発するスリや強盗の中には、生活のために犯罪をしている人も少なくありません。
チェンナイのノチクパムやデリーのジャキーラは主に労働者が集まっていて、それぞれの地域特有の問題を抱えています。
ムンバイにあるアジア最大のスラム街:ダラヴィ
インドのスラム街として一番有名なのが、ムンバイにあるダラヴィです。
- ダラヴィの現状
- ダラヴィの主要産業
ここでは、ダラヴィの現状や産業に焦点をあてていきます。
ダラヴィの現状
ダラヴィの現状は非常に複雑です。この地域は基本的なインフラが不足しており、道路、水道、電気などのインフラが十分に整っていません。
多くの家庭が狭いスペースで生活していて、プライバシーが確保されていないことも多々あります。
また、衛生環境も劣悪で、清潔な水やトイレの設備が不足しているため、女性は危険を承知で外でトイレを済ませなくてはいけません。
インドの女性が抱える性被害問題については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インドでレイプ事件が多い原因は?過去の事例と5つの対策についても解説
ダラヴィの主要産業
ダラヴィには多くの小規模な製造業やリサイクル業が存在します。
特に、リサイクル業はムンバイを支える産業の1つに発展し、住民たちはこれらの産業に従事しながら生計を立てています。
しかし、プラスチックは有害な物質を発生させるため、従事する作業員の寿命は15年程度と言われているのが現状です。
そのため、リサイクル産業に従事するのは男性のみで、女性は参加できません。
ダラヴィはインド各地から廃材や不要になった物品を集め、それを再利用可能な形に加工して販売しています。
このリサイクル活動は環境保護にも大きく貢献していて、ダラヴィの持続可能な発展に欠かせない産業です。
ダラヴィの住民たちは、このような産業活動を通じて生計を立て、厳しい生活環境の中で自らの生活を築いています。
インドのスラム街は危険か?
インドのスラム街は、一般的に危険とされています。これは、治安の問題や衛生環境の悪さ、基本的なインフラの不足などが原因です。
スラム街では犯罪率が高く、盗難や暴力事件が頻繁に発生します。また、清潔な水やトイレの不足により、病気が蔓延しやすく、住民の健康状態も悪化しやすいためです。
しかし、一方で、スラム街の住民たちはその中でも幸せを見つけて暮らしています。
スラム街の住民は幸せに暮らしている?
厳しい環境下にあるスラム街では、住民たちが互いに助け合い、日々の生活に希望を見出しています。強固なコミュニティ意識が、彼らの困難な状況を乗り越える力となっているのです。
家族や隣人との深いつながりが、この地域の特徴といえるでしょう。限られた資源を分かち合い、協力して日々の暮らしを築いています。
例えば、教育を通じて未来を切り拓こうとする人々も増えています。こうした前向きな姿勢が、厳しい環境の中でも希望を持って生きる原動力となっているのでしょう。
スラム街の住民たちは、困難を乗り越え、より良い未来を目指して歩んでいます。スラム街で暮らす子供たちは、非常に厳しい環境に置かれていますが、それでも希望を持って生きています。
多くの非政府組織(NGO)やボランティア団体が、彼らの教育支援を行っているためです。これにより、子供たちは教育を受ける機会を得て、将来の可能性を広げられます。
例えば、これらの団体はスラム街に学校を建設したり、教育プログラムを提供したりしています。
また、子供たちが安全に学べる環境を整えるために、学用品の提供や食事の支援も欠かせません。教育を受けることで、子供たちは読み書きや計算の能力を身につけ、将来の仕事や生活の基盤を作っています。
インドのスラム街をテーマにした映画『スラムドッグ$ミリオネア』
『スラムドッグ$ミリオネア』はインドのスラム街を舞台にした映画で、そのリアルな描写は多くの人々の心を打ちました。
映画の主人公は、ムンバイのスラム街で育った少年ジャマールです。彼は、非常に貧しい環境の中で育ちますが、その中で強い意志と希望を持ち続けます。
スラムドッグ$ミリオネアのストーリーとテーマ
物語は、ジャマールがインドの人気テレビ番組『クイズ・ミリオネア』に出演するところから始まります。
彼は、問題に次々と正解し、大金を獲得するチャンスを手にしました。しかし、彼がどのようにしてこれらの知識を得たのか疑問に思った警察は不正を疑い、逮捕されてしまいます。
映画はスラム街の過酷な現実を描きつつも、ジャマールの強い意志と希望、そして彼が困難に立ち向かう姿を通じて観客に勇気と希望を与えます。
ジャマールの物語は、スラム街に生きる多くの人々の苦しみや困難をリアルに描き出しながらも、希望を失わずに生きることの大切さを伝えています。
インパクトと社会的影響
『スラムドッグ$ミリオネア』は、映画としての成功だけでなく、社会的な影響も絶大でした。2008年のアカデミー賞では、作品賞や監督賞を含む8冠に輝いています。
この映画を通じて、スラム街の問題に対する関心が高まり、多くの人々がスラム街の改善に向けた活動に参加するようになりました。
非政府組織(NGO)やボランティア団体がスラム街の住民支援に力を入れるようになり、教育や衛生環境の改善など、さまざまな取り組みが進められるきっかけとなりました。
この映画は、単なるエンターテインメント作品にとどまらず、社会的なメッセージを伝える重要な作品となっています。
スラム街の現実を知ることは問題解決に向けた第一歩であり、映画を通じて多くの人々がその現実に目を向けられました。
『スラムドッグ$ミリオネア』は、インドのスラム街をテーマにした映画として、今後も多くの人々に影響を与え続けるでしょう。
インドのスラム街からモデルになったシンデレラ
インドでは、スラム街から世界的なモデルになった1人の少女がいます。彼女の名前は「マリーシャ・カルワ」でした。
ここでは、スラム街のシンデレラと呼ばれるマリーシャ・カルワの実話を紹介します。
スラム街のシンデレラ「マリーシャ・カルワ」
マリーシャは、ムンバイのスラム街ダラヴィで育った少女です。
アメリカ人俳優のロバート・ホフマンがミュージックビデオを撮影するために訪れたダラヴィで、仮設テントの中にいる当時12歳のマリーシャに気づきました。
その美しさから撮影を依頼し、その動画をSNSに投稿すると世界中で話題になり、モデルの仕事が殺到するようになりました。
マリーシャの人生はスラム街の厳しい環境から始まりましたが、その中で希望を失わずに努力を続けた結果、このサクセスストーリーを手にしたのです。
やがてスラム街の女王と呼ばれる
マリーシャは、スラム街の厳しい環境の中で育ちましたが、その努力と才能によってモデルとしての成功を収めました。
数々のファッションショーや広告キャンペーンに出演し、その美しさとカリスマ性で多くの人々を魅了しています。2024年6月時点のInstagramのフォロワー数は、47万人を超えています。
マリーシャの成功は、スラム街の他の住民たちにも大きな影響を与えました。
マリーシャのストーリーは、「どんなに厳しい環境にあっても、自分の夢を追い求められる」というメッセージを伝えています。
マリーシャは、単なる成功者ではなく、スラム街の女王として尊敬されています。彼女は成功を収めた後も、スラム街の改善や住民の支援に積極的に取り組んできました。
マリーシャの物語は、スラム街の人々にとっての希望の象徴であり、困難な状況にあるすべての人々に勇気を与えるものです。
彼女が示した強い意志と努力の結果は、多くの人々にとっての光となり、彼らが自らの夢を追い求めるための原動力となっています。
まとめ:インドのスラム街では現在も1億人もの人々が暮らしている
インドのスラム街は多くの課題を抱えていますが、そこには希望と可能性も存在します。
スラム街の住民たちは、自らの力で生活を改善しようと努力を続けていて、地域社会全体で支え合う姿勢が見られます。
また、マリーシャ・カルワのような成功ストーリーは、インドのスラム街で暮らす人々の希望です。これからも、政府や非営利団体などの援助によってスラム街の改善は進むでしょう。