人口増加が続いているインドでは、次世代の経済を担う子どもたちの教育が重要になっています。
しかし、インドでは地域や経済状況によって教育格差が埋まらないことが問題になっています。これから家族でインドへ移住を検討している人は、インドの学校教育の特徴が気になるでしょう。
今回は、公立・私立・インターナショナルスクールの特徴と日本の学校との違いを中心に、インドの学校生活について解説します。
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インドの学校制度
インドでは、以下の教育システムを採用しています。
- 就学前教育(幼稚園):3歳~6歳
- 初等教育(前期・後期):6歳~14歳
- 中等教育(前期・後期):14歳~18歳
- 高等教育:18歳~
インド特有の学校制度について解説します。
就学前教育(幼稚園)
インドの幼稚園は、3歳から6歳までの子どもたちが対象です。主に遊びを通じて学び、子どもたちの社会性や自己管理能力を育むことが重要視されています。
また、幼稚園では基本的な読み書きや簡単な算数の概念も導入されます。
近年のインドではIT産業の発達が著しく、優秀なエンジニアが世界中で活躍していますが、その理由は幼稚園から算数を取り入れているためです。
初等教育(前期・後期)
初等教育は前期と後期に分かれていて、前期が5年間、後期が3年間あります。初等教育では読み書きや算数、科学や社会科などの基本科目に加えて、芸術や体育といった科目も必修です。
また、近年は私立を中心にコンピューター実習室を完備している学校も増え、子どもたちが早期からパソコンに触れ合える環境を提供しています。
その一方で、公立学校では図書室や机など、学校に欠かせない設備が不足しているところも少なくありません。
中等教育(前期・後期)
インドの中等教育は、9年生から12年生までの4年間行われます。州ごとに異なるカリキュラムが存在し、地域によって教育内容が異なることがあるのが特徴です。
前期と後期に統一テストを実施し、その結果がその後の進学へも大きく影響します。インドでは後期中等教育までが義務教育となっていて、多くの子どもたちが複数の言語や理系科目の学びを深めます。
高等教育
インドの高等教育は、日本の大学や専門学校での教育を指し、理工系、医学、経済学、人文学など多岐にわたる分野が提供されます。
インドは日本以上に学歴社会なので、医師やITエンジニアのような年収の高い職業に就くためには高等教育を受けなくてはいけません。
しかし、インドは地方に行けば行くほど貧困率が高くなり、学費を捻出できない家庭が増加します。そのため、教育格差がそのまま世帯収入にも直結しているのが現状です。
インドの学校生活と授業の特徴
インドの学校生活は、多言語国家らしい特徴があります。インドの学校について理解するために、子どもたちの学校生活と授業の特徴を解説します。
長い夏休み
インドの学校には、5月から7月にかけて約2ヶ月間の長い夏休みがあります。インドの多くの地域では、気温が40℃を超える猛暑日が多いためです。
なかには、気温が45度以上に達する地域もあります。子どもたちが学習する環境として不適切になることから、夏に長期休暇が設けられています。
この夏休み期間中に多くの学校が補習授業や夏季講習を行い、勉強が遅れている子どもに学習機会を提供しています。特に、受験生にとっては、この期間に試験対策を強化することが一般的です。
インドの学校給食
インドの学校給食制度は、全ての学校で提供されていません。給食のない学校では、子どもたちがお弁当を持参して登校します。
しかし、貧困にともなう子どもの栄養失調を改善するために、「ミッドデイ・ミール・プログラム(Mid-Day Meal Scheme)」を開始しました。
ミッドデイ・ミール・プログラムは、栄養失調の改善や教育へのアクセス向上を狙いとして、子どもたちの健康と学業成績の向上に貢献しています。
また、インドの給食制度は地域の食文化や宗教を尊重し、各州で異なるメニューが提供されています。
多言語教育
インドは多言語国家なので、教育も多言語で行われています。インドには22の公用語がありますが、州ごとに異なる言語も使用されています。
たとえば、タミル・ナードゥ州ではタミル語、マハーラーシュトラ州ではマラーティー語が主な教育言語です。
教育政策としては、通常、ヒンディー語、英語、そして地域言語の3言語がカリキュラムに組み込まれています。これによって子どもたちは幼少期から複数の言語を習得し、多文化理解を深めています。
インドの多言語教育は、社会的・文化的多様性を維持し、国際社会におけるインドの競争力を高める要因としても重要です。インドの公用語や州言語については、以下の記事で解説しています。
参照:インドの公用語はヒンディー語?州ごとの公用語と多言語事情を解説
試験重視の教育
インドの教育システムは試験を重視しているため、子どもたちは頻繁に試験を受けることになります。
特に、中等教育の10年生と12年生の終わりに行われる全国共通試験は、大学進学や将来のキャリア形成に大きな影響を与える試験です。
裕福な家庭では、塾や家庭教師を利用して全国共通試験の準備を行い、競争に勝ち抜くため日々勉強に励んでいます。
この試験重視の文化はインドの教育システムの特徴で、その影響は就業や社会全体に広がっています。
インドの私立校・公立校・インターナショナルスクールの違い
インドには、大きく分けて以下の3つの学校があります。
- 私立校
- 公立校
- インターナショナルスクール
日本とは異なるそれぞれの学校の特徴を解説します。
インドの私立校は富裕層向け
インドの私立校は、質の高い教育を提供することで知られていて、特に都市部で人気があります。私立校では豊富なリソースや近代的な設備、そして高度な教育カリキュラムが特徴です。
多くの私立校では、英語を主な教育言語として使用し、国際的な教育基準に沿ったカリキュラムを採用しています。
また、私立校は教師の質にもこだわりがあり、高度な資格を持つ教師が子どもたちを教えています。さらに、私立校ではスポーツや芸術、音楽や演劇などの活動にも力を入れています。
子どもたちにとってメリットの多い私立校ですが、学費が高く、入学は裕福な家庭の子どもたちに限られているのが現状です。
インドの公立校は地方や低所得層向け
インドの公立校は、主に政府によって運営され、低所得層の家庭に教育を提供することを目的としています。公立校は学費が無料または低く設定されているので、学校教育の機会均等を図るために重要です。
しかし、インドの公立校は、地域や学校によって教育の質に大きなばらつきがあります。特に、農村部の公立校ではインフラや教師の不足、教材の質の低さなどの課題に直面しています。
私立校が英語で教育を受けるのに対して、公立校ではヒンディー語や州言語を用いて教育を受けるのも特徴です。
インドのインターナショナルスクールは国際カリキュラムを採用
インドのインターナショナルスクールは、外国人駐在員やインド国内の富裕層の子どもたちに人気があります。
インターナショナルスクールでは国際的なカリキュラムを採用していて、以下のようなプログラムを提供しています。
- IB(国際バカロレア)
- CAIE(ケンブリッジ アセスメント)
- IPC(国際的な初等教育カリキュラム)
インターナショナルスクールのもう一つの特徴は、最新の教育技術や設備が整っていることです。クラスサイズが小さいので個別指導が容易で、学生一人ひとりに質の高い教育を提供しています。
また、国際的な大学への進学を視野に入れた進路指導が充実している点も特徴的です。ただし、インターナショナルスクールは学費が高価で、入学に関しても厳しい基準が設けられています。
インドと日本の学校の違い
インドと日本の学校は、以下の点で違いがあります。
- 教育システムの違い
- 教育言語の違い
- 試験の重要度
特に、教育システムは根本的に異なるので、インドの学校へ入学を検討している場合は参考にしてください。
教育システムの違い
インドの教育システムは「5+3+2+2」の構造にもとづいていて5年間の前期初等教育、3年間の後期初等教育、2年間の前期中等教育、そして2年間の後期中庸教育から構成されています。
この構造はインドの子どもの発達段階に合わせて設計されていて、初期の段階での言語と基礎的な算数教育が重視されています。
一方、日本の教育システムは、一般的に「6+3+3」の構造で、小学校に6年間、中学校に3年間、高校に3年間通学するのが一般的です。
日本の教育では、小学校の段階で基礎的な学力の確立が重視され、中学校からは教科別の専門教育が始まります。
教育言語の違い
インドは公用語としてヒンディー語と英語が使用されていますが、州ごとに異なる言語も教育言語として使用されます。そのため、私立校の子どもたちは早期から3言語を習得しやすいのがメリットです。
対照的に、日本では基本的に日本語が教育言語として使用されています。英語教育は小学校から始まりますが、日本語が学校教育の中心なので、外国語教育が遅れていると指摘されることもあります。
試験の重要度
インドの教育システムは試験に重点を置いていて、特に10年生と12年生の全国共通試験は、大学進学や将来のキャリアに大きな影響を与えます。
そのため、インドの子どもたちは幼い頃から受験競争にさらされ、多くの時間を試験準備に費やすことも珍しくありません。
日本でも高校入試や大学入試は重要視されますが、近年では試験だけでなく内申点や面接など、総合的な評価が行われる傾向が強まっています。
また、日本の教育は「詰め込み教育」と批判されますが、現在ではアクティブ・ラーニングや生徒の自主性を尊重する教育へ方針転換しています。
インドの学校と教育改革
インドで注目を集めているのが、2020年に発表された新教育政策(National Education Policy 2020)です。2030年までの導入を目指しているこの教育政策が注目を集めている理由を解説します。
インド政府の新教育政策(NEP2020)とは
NEP2020は、インドの教育システムを大きく改革することを目的としています。インドの教育をグローバルスタンダードに合わせるため、以下の特徴が盛り込まれています。
- 多様な学びの機会の提供
- デジタル技術の活用
- 教師の質向上
NEP2020は、既存の教育システムだった「5+3+2+2」から「5+3+3+4」へ変更されることになります。
- 3年の就学前教育+初等教育の前半2年(第1~2学年)
- 8~11歳:初等教育(第3~5学年)
- 11~14歳:前期中等教育(第6~8学年)
- 14~18歳:後期中等教育(第9~12学年)
- 18歳以上~:後期教育
これまでのインドの義務教育は6歳〜14歳まででしたが、NEP2020では3〜18歳の15年間が義務教育となります。
インドのICT教育とデジタル化
インドのICT教育(情報通信技術)とデジタル化は、NEP 2020の中でも強調されています。
子どもたちが21世紀に求められるスキルを身につけるために、テクノロジーを教育に統合することが主な目的です。
ICT教育では、プログラミングやデータ分析、サイバーセキュリティなど、現代のデジタル社会に不可欠なスキルが盛り込まれます。
教育格差が問題になっている農村部の学校でもICTインフラの整備が進められ、都市部との教育格差が縮小することが期待されています。
また、感染症の影響でオンライン学習の重要性も急速に高まりました。NEP2020では、オンライン教育プラットフォームの拡充と遠隔教育のインフラ整備も進めています。
インドのICT教育とデジタル化は、子どもたちに新しい学びの機会を提供し、インドの教育を世界的なレベルへと引き上げるために重要です。
インドの学校ではIT教育に力を入れているのが特徴
インドの学校教育では、近年、IT教育が大きな注目を集めています。特に、新教育政策(NEP2020)の導入によって、ICTと教育カリキュラムの統合が強化されています。
プログラミングやデジタルリテラシーは、初等教育から中等教育に至るまで幅広く取り入れられるため、将来を担う子どもたちが21世紀のスキルを習得しやすくなるでしょう。
インドでは日本以上の教育格差が問題となってきましたが、2030年に導入を目指しているNEP2020によって、さらなる優秀なIT人材を育成していくと予測されています。
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