インドには大きな川が複数あり、人々の生活に様々な恩恵を与えてくれています。しかし、インドの川と聞くと汚いのでは?と心配になる人もいるでしょう。
事実、インドでは川の汚染問題が深刻になっていて、政府は対策に追われています。
本記事では、これからインドを訪れる予定のある人向けに、インドの有名な川の紹介と汚染状況の解説、水道水の安全性について解説していきます。
渡航中に体調を崩さぬよう、最後まで読み進めてみてください。
インドの川は聖なる川
インドでは川は単なる水の流れではなく、聖なる存在として崇められています。インドでは人口の79.8%がヒンドゥー教を信仰しています。
ヒンドゥー教ではガンジス川やインダス川は聖地とされ、沐浴を行ったり死者の遺灰を流したりするのが習慣です。インドの人々にとって、聖なる川は浄化や癒しの力を持つと信じられているためです。
また、川の水を飲むことで病気が治ると信じる人がいたり、沐浴は罪を浄化すると考えられたりしています。聖なる川での沐浴や水を使った儀式は、古くからインドの文化や伝統と深く結びついてきました。
このように、インドの川は単なる自然や生活の一部ではなく、人々の信仰と密接に関わっています。
インドで有名な川一覧
インドには数多くの川が存在しますが、その中でも以下の川が有名です。
- ガンジス川
- インダス川
- クリシュナ川
- ヤムナ川
特にヒンドゥー教との関わりが深いガンジス川は、これからインドを訪れる上で知っておく価値があります。
ガンジス川
ガンジス川は、インドで最も有名で神聖な川の一つです。ヒマラヤ山脈に源を発し、インド北部を東へ流れ、ベンガル湾に注ぎます。
ガンジス川の全長は約2,500kmに及び、ヒンドゥー教徒にとって最も神聖な川と崇められています。
多くの巡礼者がガンジス川で沐浴や儀式を行うなど、現在でも多くの国民の生活に欠かせない存在です。特に、バラナシやハリドワールなどのヒンドゥー教の聖地では、大勢の人々が沐浴を行っています。
また、ガンジス川上流では水力発電、下流では水上交通などにも利用されており、沿岸地域の経済を支えています。その一方で、人口増加や工業化による水質汚濁が深刻化しており、環境保護が大きな課題です。
インド政府は、ガンジス川の浄化プロジェクトを進めており、下水処理施設の整備や住民への啓発活動などに取り組んでいます。ガンジス川は、インドの人々にとって物理的にも精神的にも欠かせない存在であり、その保全は国家的な課題になっています。
インダス川
インダス川は、インド北部を流れる全長約3,000kmの大河です。その源流はチベット高原にあり、パキスタンを経由してアラビア海に注ぎます。
インダス川流域は古代インダス文明の発祥地としても知られているため、歴史的にも重要な地域です。現在のインダス川は主にパキスタン領内を流れていますが、カシミール地方などの一部地域も流域に含まれています。
インダス川は、インドだけでなくパキスタンの農業や水力発電に欠かせない水資源となっています。インドとパキスタンの間では、インダス川の水利用をめぐる対立もありました。
1960年に調印された「インダス水協定」は、両国による川の水利用について取り決めた国際条約です。インダス水協定によってインドとパキスタンの紛争は回避されましたが、水資源をめぐる緊張関係は根強く残っています。
近年は、気候変動による氷河の融解や、工業化による水質汚濁など、インダス川を取り巻く環境問題が指摘されています。
内部リンク:インドとパキスタンの仲が悪い理由|両国が分裂した歴史と現在を解説
クリシュナ川
クリシュナ川は、インド南部のマハーラーシュトラ州に源を発し、アーンドラ・プラデーシュ州を経てベンガル湾に注ぐ全長約1,300kmの河川です。クリシュナ川は水力発電や飲料水の供給源として重要な役割を果たしています。
クリシュナ川流域には、歴史的に重要な都市が点在しています。ビジャプールにはゴール・グンバズと呼ばれるドーム建築の建造物があり、アマラヴァティにはサータヴァーハナ朝の仏教遺跡が残されていて、どちらも観光の名所です。
また、クリシュナ川は信仰の対象としても崇められているのも特徴です。クリシュナという名はヒンドゥー教の神クリシュナにちなんでいて、聖地の一つとされています。
そんなクリシュナ川も、他のインドの河川と同様に水質汚濁や水資源の枯渇が問題となっています。
参照:インドの神様はたくさんいる!?インドの神様の紹介と日本との関係
ヤムナ川
ヤムナ川はガンジス川最大の支流で、インド北部を流れる全長約1,400kmの河川です。ヤムナ川はウッタラーカンド州のヤムノートリを起源に、デリーやアグラ、マトゥラーなどの主要都市を通過してガンジス川に合流します。
ヤムナ川も古くからヒンドゥー教の聖地として崇められてきました。マハーバーラタなどのヒンドゥー教の叙事詩にも登場していることから、多くの巡礼者がヤムナ川で沐浴や儀式を行っています。
また、ヤムナ川は灌漑や水力発電にも利用されており、沿岸地域のインフラを支えています。特に、デリーやアグラといった大都市では、ヤムナ川からの取水が不可欠です。
しかし、急速な都市化や工業化に伴い、ヤムナ川の水質汚濁が深刻化しています。近年では、有害な泡が大量発生し、AFPニュースなどでも取り上げられました。
ヤムナ川の汚染は、大量の下水の流入と産業廃棄物が原因です。インド政府は水質改善に向けた取り組みを進めていますが、まだ成果は不十分です。
ガンジス川の汚染問題
歴史的にも有名なガンジス川ですが、近年は水質汚染が深刻化しています。
- ガンジス川はヒンドゥー教徒の沐浴場
- ガンジス川は水葬の場
- ガンジス川と生活・工業排水
インドの人々に欠かせないガンジス川の汚染について、詳しく解説していきます。
ガンジス川はヒンドゥー教徒の沐浴場
ガンジス川は世界有数の規模を誇る河川であり、ヒンドゥー教徒にとって聖なる川として位置づけられていることから、連日多くの人々が沐浴に訪れています。特に、バラナシやハリドワールなどの巡礼地では、朝夕の祈りの時間になると、大勢のヒンドゥー教徒が川辺に集まります。
ヒンドゥー教が沐浴を行う背景には、ガンジス川の水は罪を洗い流し、心身を浄化する力を持つと信じられているためです。沐浴は単なる身体的な清めではなく、魂の浄化を意味する宗教的な行為でもあります。
しかし、大勢の人々が沐浴することで、ガンジス川の水質汚濁が進行しているのも事実です。沐浴の際に用いられる石鹸や洗剤、供物として捧げられるプラスチック製品などが、ガンジス川に大量に流れ込んでいるためです。
信仰と環境保護の両立は容易ではありませんが、ガンジス川の水質改善に向けて行政と地域住民、ヒンドゥー教徒が協力することが求められています。日本人がインドに渡航する際も、沐浴するのは衛生環境から見てやめておいたほうが無難です。
ガンジス川は水葬の場
ガンジス川での水葬は、亡くなった人の魂を解脱へと導く儀式として、古くから行われてきました。ヒンドゥー教の教えでは、人は死後、輪廻転生を繰り返すとされています。
ガンジス川で水葬されることで、その輪廻から解き放たれ、永遠の安息を得られると信じられているのです。水葬する際は遺体を焼き、遺灰をガンジス川に流すという手順で行われます。
火葬場は川辺に設けられ、遺族や司祭によって厳かに儀式が執り行われます。遺灰を川に流した後は祈りを捧げ、故人の冥福を祈ります。
しかし、大量の遺灰がガンジス川に流れ込むことで、水質汚濁が深刻化しているのも事実です。薪の不足から火葬が不完全になったり、遺体がそのまま川に投棄されたりするケースも報告されています。
腐敗した遺体が川を流れる光景は、衛生面での問題だけでなく、人々の宗教的感情をも傷つけかねません。
聖なる儀式と川の環境保全を両立させるためには、伝統と現代技術の融合が不可欠と言えるでしょう。ガンジス川が死者を弔う聖地としての役割を果たし続けられるよう対策を続けることが重要です。
ガンジス川と生活・工業排水
インドでは繊維や皮革、化学、製紙など水を大量に使用する産業が盛んで、経済発展を支えています。その一方で、工場からの排水は、ガンジス川の水質汚濁の大きな要因の1つとなっています。
インドでは工業排水の規制が遅れているため、排水処理が不十分なまま河川に放流される工業排水には、重金属や有害化学物質が高濃度で含まれているのが現状です。下流域では工業排水の汚染物質が蓄積し、深刻な環境汚染を引き起こしています。
また、工業用水としての取水も、ガンジス川の水量減少を招いています。河川流量の低下は汚濁物質の濃度を高めるだけでなく、生態系のバランスを崩す要因にもなりかねません。
ガンジス川の恩恵を受けながら操業する工場には、社会的責任として、河川の浄化に協力する義務があるはずです。企業と地域社会が一体となって、ガンジス川の水質改善に取り組むことが強く望まれています。
インドの汚染対策
インドのモディ首相はガンジス川の水質改善を約束し、様々な対策を進めています。2014年7月にはガンジスプロジェクトに203億7,000万ルピーを投じましたが、思うような成果を得られていません。
汚染対策で重要なのが、都市部の下水処理施設を拡充することです。未処理下水の流入がガンジス川汚染の主要な原因となっているため、下水道網の整備と処理場の建設が急務となっています。
さらに、ガンジス川浄化に向けた啓発活動も重要です。流域住民や巡礼者への環境教育を通じて、川の汚染防止に対する意識を高めていく必要があります。行政と地域社会が協力し、美しいガンジス川を取り戻すための行動を広げていくことが求められています。
しかし、インド政府の汚染対策はインフラ整備の遅れや法の順守徹底の難しさなど、克服すべき課題が山積みです。聖なるガンジス川の再生は、インドの未来そのものと言っても過言ではないでしょう。
インドの水道水は汚染されている?
インドの多くの地域では、水道水の水質汚濁が深刻な問題となっています。
河川の汚染が進む中、浄水処理が不十分なまま給水されるケースが多いためです。
インド滞在中に欠かせない水道水の汚染についても解説していきます。
インドの水道水の現状
インドの水道水は約70%が汚染されているとも言われていて、人々が安全な飲用水を確保できていないことが問題視されています。水道管が破損して大腸菌が混入したり、基準値を超える鉄やヒ素などの有害物質が検出されたりしています。
自然由来の汚染物質に加え、農業排水や工場排水の影響も問題です。基準値を超える有害物質を含む水を長期間飲用した場合、深刻な健康被害が生じる恐れがあるためです。
水質管理を強化するためには、浄水場での適切な処理の徹底が欠かせません。あわせて、水質検査体制の強化と、モニタリング結果の公表も必要です。
安全で清浄な水を安定的に供給することは、国民の生存権に関わる国家の責務と言えるでしょう。水道水の水質改善は、インドを挙げて取り組むべき重要な課題です。
インド渡航時に飲用水はどうべきか
インドに渡航する際は、水道水をそのまま飲むのは危険です。お腹を壊したり、有害な物質を摂取してしまったりする可能性があるためです。
インドに滞在中は、ミネラルウォーターを購入して水分補給をしましょう。
また、レストランなどで食事する際も、水を口にするのはおすすめできません。提供される水は水道水を使っているため、別途ミネラルウォーターを注文して水分補給を行ってください。
どうしても水道水を飲まないといけない場合は、一度煮沸してから飲むようにすると体調不良のリスクを低減できます。常にミネラルウォーターを常備し、いつでも安全に水分補給できる環境を作っておきましょう。
参照:インドのおすすめ食べ物TOP10!食事マナーやお腹を壊さないポイントも
まとめ:インドの川は汚染が深刻化していて注意が必要
インドでは、ガンジス川をはじめとした多くの川が汚染されています。工業排水や生活排水が流れ込むだけでなく、洗濯や沐浴などで化学物質が流れ込んでいるためです。
インド政府は川の汚染対策として浄水場や下水施設の整備を急いでいますが、改善の見通しは立っていません。
そのため、インドの川に入ったり川の水を口にしたりするのは危険なので、インドの渡航時も気を付けましょう。
また、インドの水道水も約70%が汚染されていると言われています。インドに滞在中は、レストランでも出された水を飲まないように意識してください。