インドでは2024年に総選挙があり、モディ首相が辛勝で3期目を迎えました。
今回は、世界中が注目するインドのモディ首相とはどのような人物なのか、これまでどのような実績を作ってきたのかを解説します。
同時に、インドの首相と大統領の違いも解説します。
インドのモディ首相がこれまでに行った政策
モディ首相は、これまでにさまざま政策を実行してきました。
- モディ首相の掲げる「メイク・イン・インディア」
- モディ首相が進めるバーラト提案
- モディ首相の政策に対する国民の反応と批判
モディ首相の手腕と国民からの評価について解説していきます。
モディ首相の掲げる「メイク・イン・インディア」
ナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相は、インド政界で革新的な政策と強力なリーダーシップを発揮しています。モディ首相は就任当初から、「メイク・イン・インディア」を掲げていました。
この「メイク・イン・インディア」とは、製造業振興のスローガンです。海外からの製造業への直接投資を働きかけ、GDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げるのが目的です。
自国の製造業を保護するために特定製品の関税を引き上げて、輸入規制も行っています。2023年には、突如としてノートパソコンやタブレットなどの輸入に制限をかけたことも大きな話題になりました。
「メイク・イン・インディア」は経済成長の加速だけでなく、インドをグローバル製造業の中心地に変貌させることが目的です。その過程で数多くの雇用機会を創出し、国際貿易におけるインドの地位も向上していくでしょう。
参照:ダイヤモンドオンライン「中国が標的か…インドが突如パソコンの輸入制限を発表も「失敗濃厚」な理由」
モディ首相が進めるバーラト提案
2023年に行われたG20のサミットで、インドのムルム大統領は自分のことを「バーラト大統領」と呼び、世界に衝撃を与えました。同サミットでモディ首相のテーブルに置かれたプレートにも、インドではなくバーラトと記載がありました。
バーラトとは、インドで使われるヒンディー語やその他の公用語でインドを指す言葉です。事実、インド憲法の第一条には、「インドすなわちバーラト(Bharat)は、諸州の連邦である」と記載されています。
これまで、国際的な場では英語表記のインディアを用いることが一般的でしたが、急にバーラトを提案したことに諸外国は驚きを隠せませんでした。今すぐ国名が変わることや世界の認識が変わることはありませんが、今後のモディ首相やインドの行動にはさらなる注目が集まるでしょう。
参照:J-Stage「インド高等教育における連邦と州の関係」
モディ首相の政策に対する国民の反応と批判
モディ首相の政策は、インド国内外で激しい議論の的となっています。第1期選挙の直前には、パキスタンへの報復攻撃を行ったことで強い指導者としてのイメージを掴み、そのまま選挙で圧勝しました。
その後もインフラ整備や経済政策を打ち出し、国民からの支持を強固にしていきます。その一方で、インドのイスラム教徒コミュニティへの圧力が問題視されています。
イスラム教由来の地名を変更したりイスラム教徒を難民申請から除外したりと、イスラム教への風当たりが強くなっているためです。モディ首相は報道規制を行っているので、中国のように国民が自由な発言をしにくいのも問題です。
経済政策と社会政策の間でバランスを取ることの難しさが、モディ首相の長期政権を維持する上での大きな試練となっています。国民からの反応は、政策の成功を左右する重要な要素だからです。
改革を進める中でモディ首相は国民の信頼を維持し、多様なコミュニティ間のバランスを保つことの重要性に直面しています。
参照:インドとパキスタンの仲が悪い理由|両国が分裂した歴史と現在を解説
インドのモディ首相の政治キャリア
モディ首相は元々国会議員の家に生まれたわけではありません。むしろ、カーストの低い階層の家に生まれました。
そんなモディ首相の政治キャリアについて、詳しく解説していきます。
グジャラートの奇跡【1987年~2014年】
子どもの頃から家計のためにチャイ(インド式紅茶)の販売を手伝っていたモディ首相は、ヒンドゥー教を深く信仰していました。学生時代から、ヒンドゥー至上主義団体のRSS(民族奉仕団)の活動に参加し、政治家としての活動を夢見ます。
1987年にRSSが支持するインド人民党に入党し、グジャラート州議会議員に当選します。地方の議会議員だったモディ首相がいきなり首相に就任した背景には、「グジャラートの奇跡」がありました。
当時のグジャラート州は、電力の供給が不安定で工場の稼働にも大きな影響が出ていました。モディ首相は強すぎるグジャラート州の日差しに着目し、アジア最大規模の太陽光パネルを設置します。
太陽光発電で電力が安定し、外資系企業の誘致を進めた結果、多くの国民の支持を得て2014年に首相に就任しました。
モディ首相就任初期【2014年から2019年】
2014年に首相に就任して以降、モディ首相はインドの経済改革と社会的包摂の推進に注力してきました。主な政策は外国からの企業誘致、デジタル化の促進、国際関係の強化です。
特に、デジタル化は行政手続きやビジネスを大きく促進しましたが、この改革が経済分野における不平等の拡大や特定の社会集団への影響を引き起こしたことも事実です。
2017年には当時の安倍晋三首相を地元のグジャラート州に招き、翌年には安倍元首相が山梨県の別荘にモディ首相を招いています。モディ首相は日本に友好的で、さまざまなインフラ支援を受けたことも評価されています。
参照:日本とインドの関係|新旧の経済大国の今後についても解説
モディ首相2期目【2019年から2024年】
2期目を迎えたモディ首相は、イスラム教への風当たりを強め、ヒンディー教を優遇します。また、新型コロナウイルスが蔓延すると13億人のロックダウンを敢行し、世界最大のロックダウンとして注目を浴びました。
外交面では海外進出を強める中国を牽制するように、インド、アメリカ、日本、オーストラリアとクアッドを形成し、インド洋の平和を目指しました。このクアッドは2024年現在でも継続しています。
モディ首相は、ロシアがウクライナに侵攻したあともプーチン大統領と会談するなど、積極的な外交を続けています。多くの功績を残す一方、地方の失業や農村部の生活向上などの課題をどう解決していくかが注目です。
インドと他国の関係性については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インドと他国との関係|アメリカ・中国・日本・ロシアなどとの歴史とこれから
モディ首相の再選と3期目【2024年~】
モディ首相は2024年に歴史的な3期目の当選を果たしましたが、この選挙は簡単なものではありませんでした。
ジェトロ(日本貿易振興機構)によると、モディ首相が所属するインド人民党(BJP)は過半数を確保できず、連立政権を形成しないと政権運営ができなかったためです。
2019年の選挙で303議席を獲得したインド人民党は、今回は240議席に留まりました。インド人民党を中心とした与党連合・国民民主同盟(NDA)としては全議席の過半数を確保しています。
一方、対立する国民会議派が率いる野党連合は234議席を獲得しました。
3期目のモディ首相が掲げる政策とインドの方向性
3期目に入ったモディ首相は、以下のような政策に力を入れると予測されています。
- 製造業振興政策
- インフラ整備
- 経済目標
特に、大幅に議席を落としたインド人民党にとって、製造業を中心とした経済成長は重要政策になるでしょう。
製造業振興政策
モディ首相は、2020年に発表された「自立したインド(Self Reliant India)」を継続し、特に製造業の強化に力を入れると予測されています。
グローバルサプライチェーンにおける生産・輸出拠点としてのインドの地位向上を目指し、国内生産強化を通じた経済安全保障を確保するでしょう。
製薬業界では、インドの既存の強みを活かし、さらなる研究開発と生産能力の拡大を目指しています。
また、1期目当初から製造業振興政策「Make in India」を推進していて、その中でも重視しているのが「生産連動型優遇策(PLI)」です。
これは携帯電話や医薬品、自動車部品、先端化学電池など14品目を対象に補助金を付与するもので、インド経済にとって重要品目の国産化を目的としています。
インドが国際的な製造の中心地として成長し、経済の安定を図るのがモディ首相の考えです。
インフラの改革
モディ首相率いるインド人民党は、今回の総選挙で「世界水準のインフラ整備」を公約に掲げたので、3期目においてインフラ開発も重要政策と位置づけています。
2021年に打ち出された包括的なインフラ開発計画「ガティ・シャクティ」を基礎に、地域や州を超えた効率的な整備を目指します。
これまでもモディ政権下でインフラ状況は改善されてきましたが、インドがグローバルサプライチェーンにおいて重要な役割を担うには、安定的な電力供給などを含めたさらなる高品質なインフラが欠かせません。
今後、インド人民党は積極的な予算配分を行い、インフラ整備に本腰を入れて取り組むでしょう。
インドのインフラ開発は新たなステージに入ったと言えます。これによりビジネス環境の改善が期待され、世界中からインドへ進出しようと考える企業が増えると予測されます。
経済目標
モディ首相は、インドの経済規模を2027年から2028年までに5兆ドルに拡大し、2047年までに先進国となることを目標に掲げています。
これを実現するために、さまざまな産業の発展とインフラの近代化を進めています。特に、製造業の強化、技術革新の推進、持続可能なエネルギーの導入などが重点施策です。
また、農業改革や貿易の自由化、投資環境の改善など、経済全体の競争力を高めるための政策を実施中です。
さらに、デジタルインフラの強化やスタートアップ支援を通じて、新たな産業の育成と雇用創出を図っています。
これらの取り組みによってインドは経済成長を加速させ、先進国の仲間入りを目指しています。これまでのインド経済については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インド経済について日本企業進出の観点から解説!今後のインド経済の発展は?
インドの首相と大統領の違い
日本は首相のみ、アメリカは大統領のみですが、インドは首相と大統領がそれぞれいます。
日本人には、首相と大統領の役割やどっちが偉いのか分かりません。
インドの首相と大統領の違いについて、詳しく解説していきます。
インドの首相と大統領の役割
インドの政治システムでは、大統領は国家の象徴、首相は政府の実質的な指導者として位置づける独特の連邦共和制を採用しています。大統領と首相の役割は明確に区別されており、それぞれが憲法に基づいた異なる責務を持っています。
大統領は国家の統一性を象徴し、主に国際会議や儀式的な役割を果たすのが役割です。一方で、首相は政府の実行権を持ち、政策の策定と実施に直接関与します。この区分は、インドの民主的な政治運営をするために重要なシステムです。
インドの首相と大統領はどっちが偉い?
実際の権力と影響力の面で見ると、インドでは首相の方が大統領よりも重要な位置を占めています。モディ首相のような強力なリーダーシップを持つ首相は、率先して国の方向性を定めます。
国際的には大統領の方が立場は上になりますが、インド国内の影響力は首相の方が強いでしょう。インドの他にもドイツやフランス、イタリアでも同じシステムを採用していますが、基本的には大統領の方が首相よりも立場は上という認識です。
歴代のインド大統領とインド首相
インド初の大統領はラジェンドラ・プラサド氏で、初の首相はジャワハルラール・ネルー氏が務めました。大統領と首相の役割は一貫して憲法上で明記されてきましたが、その政治的影響力は時代と共に変化します。
2007年に初の女性大統領となるプラティバ・デヴィシン・パティル氏が就任した際は、大きな話題になりました。しかし、現在のモディ首相のような強い首相を務める際はインドの政治、経済、社会に特に大きな影響を及ぼします。
インドの政治システムは、時代の流れと共に進化してきたものの、大統領と首相の役割という基本的な枠組みは維持されており、それぞれがインドの民主主義と憲法上の原則に基づいて重要な役割を果たしています。
まとめ:インドのモディ首相は選挙に勝ったが多くの問題を抱えた
インドのモディ首相は、近年稀にみる強いリーダーです。国内の課題だけでなく、各国の要人とも積極的に会談を行い、自国の利益と安全のために尽力してきました。
エネルギーの安定供給や経済成長など、さまざまな成果もあげているので、2024年の総選挙でも再選を果たしました。
しかし、以前のようなカリスマ性は影を潜め、インド人民党単独での政権運営はできなくなっています。今後のインドの成長とモディ首相の政策には、世界中が注目しています。