インドの医療レベルは?医療制度と課題・主要都市の医療機関を紹介

インドは多様な文化と急速な経済成長で世界から注目を集めている一方、医療制度や医療水準についてはまだまだ未知の部分が多いと感じる方も少なくありません。

海外旅行やビジネスでインドを訪れる日本人にとって、現地の医療事情を正しく理解することは、安全な滞在のために重要です。

本記事では、インドの医療レベルから医療制度の課題、日本人向けの医療機関、そして病気の予防策を解説します。

これからインドを訪れる方や現地での生活を検討している方は、本記事を参考にしてください。

インドの医療レベル

診療に使う聴診器

インドの医療レベルは、近年大きく向上しています。

  • インドの医療水準
  • 民間病院の特徴
  • 医療費の自己負担率

インドの医療レベルだけではなく、私たちに大切な医療費の自己負担率も解説します。

インドの医療水準

インドでは2000年以前と比較すると、高度な専門知識を持つ医師が増えてきました。

WHO(世界保健機関)の統計によると、インドの平均寿命は1990年代の約58歳から、2022年には70.8歳まで延びています。この進歩は、医療の質の向上と公衆衛生の改善によるものです。

しかし、ジェトロ(日本貿易振興機構)の調査によると、人口10万人あたりの医師数は約80人と日本の約250人と比較するとまだ低い水準にあります。

また、医療設備や医療従事者の質には地域差が大きく、農村部では基本的な医療サービスが不足していることもあります。

それでも、インド全体の医療レベルは着実に向上しており、特に私立医療機関では国際基準を満たす高品質なサービスが提供されています。

民間病院の特徴

インドの民間病院は、私立病院と公立病院で医療の質が異なります。私立病院は主に都市部に集中し、駐在員や観光客などの外国人患者向けです。

その理由は、英語が通じることはもちろんのこと、一部の病院では日本語通訳サービスやヘルプデスクを提供しているためです。

また、私立病院は待ち時間が短く、個室や清掃が行き届いた施設を提供してくれます。医師や看護師の質も公立病院よりも高く、海外で研修を積んだ専門家も在籍しています。

ただし、公立病院と比べて私立病院は医療費が高額になるため、利用の際には費用の事前確認が必要です。

医療費の自己負担率

インドでは公的医療保険の普及率は25%程度といわれており、多くの国民が医療費を自己負担しています。そのため、医療費が家計に大きな影響を与えるケースも少なくありません。

野村総合研究所の2016年のデータでは、日本の医療費自己負担率が平均13%だったのに対して、インドは65%でした。

医療費の自己負担割合

引用:ヘルスケア国際展開ウェブサイト「プライマリケアに関する現状・課題|高額な医療費負担」

そのため、インドでは高度な医療サービスを受けたり入院治療になったりすると、医療費が急増します。

インドの医療制度と課題

病院の病室

インドでは人口の急増に医療制度が追いついていないのが現状です。

  • 医療サービスへのアクセス格差
  • 国家健康保護計画(モディケア)と課題

インドで起きているそれぞれの医療問題について解説します。

医療サービスへのアクセス格差

インドの医療制度は、公立と私立の2つのセクターから成り立っています。この二重構造が、地域間および社会経済層間の医療アクセス格差を生み出す最大の要因です。

都市部では高度な医療設備を備えた私立病院が数多く存在し、高品質な医療サービスを受けられます。

一方、農村部や貧困地域では医療施設や医師の数が極端に不足し、基本的な医療サービスさえ受けられない人々が多く存在します。

経済的に余裕のある人々は私立病院で高度な医療を受けられますが、低所得層は公立病院に頼らざるを得ません。

しかし、公立病院は慢性的な資金不足と過密状態で、十分な医療サービスを提供できていないのが現状です。

このようなアクセス格差は、予防可能な疾病の蔓延や乳幼児死亡率の高さなど、深刻な公衆衛生上の問題を引き起こしています。

国家健康保護計画(モディケア)と課題

2018年、インド政府は国家健康保護計画(通称モディケア)と呼ばれる大規模な公的医療保険制度を導入しました。

これは、経済的に弱い立場にある約1億世帯(約5億人)を対象に、年間5万ルピー(約8万5,000円※1ルピー=1.7円換算)までの入院医療費をカバーするものです。

国家健康保護計画は、低所得層が必要な医療サービスを受けられるようにする目的で始まりました。

医療機関を気軽に受診できる体制を整えることで疾病の早期発見・治療につなげ、インド全体の健康水準を上げる計画でした。

しかし、約5億人を対象とするため、政府財政への負担が大きいことが懸念されています。

また、医療を受けたい人が増加しても、公立病院の設備不足や人員不足が深刻で受け入れ能力には限界があります。

政府は、今後も保険制度の拡充と運用改善に努めていくと見られ、民間の医療機関との協力やデジタル技術の活用によって、効率的な医療サービスの提供が期待されています。

インドに滞在する日本人向けの医療情報

点滴を受ける患者

インド滞在中に体調が悪くなった場合、どの医療機関を受診したらいいか悩んでしまいますよね。万が一の事態に備えて、日本人が利用しやすい医療機関と緊急時の連絡先を解説します。

日本人が利用しやすいインドの医療機関

インドを訪れる日本人にとって、言葉や文化の違いは医療機関を利用する際の大きなハードルとなります。

しかし、インドの主要都市には日本人が安心して利用できる医療機関が存在しているのでご安心ください。

これらの医療機関は、確かな医療技術と設備を備えているだけではなく、英語や一部日本語にも対応しています。

デリーの医療機関

デリーでは、以下の病院を受診しましょう。

上記の病院は国際水準の医療サービスを提供し、外国人患者の受け入れ実績も豊富です。

ムンバイの医療機関

ムンバイでは、以下の病院がおすすめです。

Dr L H Hiranandani Hospitalは日本語ヘルプデスクのある総合病院です。原因のわからない体調不良の際は、診療科目の多い総合病院を受診しましょう。

チェンナイの医療機関

チェンナイに滞在する際は、以下の病院を覚えておくと安心できます。

チェンナイでも日本人が利用しやすい医療機関が増えてきています。これらの病院では、日本語のサポートはありませんが、外国人患者の対応実績が豊富です。

事前に大使館や現地の日本人コミュニティから医療機関の情報を収集し、自身の滞在地域で信頼できる医療機関をリストアップしておくと安心です。

緊急時の対応と連絡先

インドでの滞在中に万が一の事態が発生した場合、現地の救急サービスだけではなく、在インド日本国大使館や領事館が重要な支援先となります。

デリーにある在インド日本国大使館は、パスポートの紛失や盗難、事故や病気などの緊急事態に対して支援を行っています。

大使館や総領事館の連絡先や所在地を事前に控えておくと、いざという時にスムーズに対応可能です。

また、ムンバイやチェンナイ、ベンガルールには総領事館が設置されており、それぞれの地域で日本人へのサポートを提供しています。緊急連絡先としては、「102」が救急車の要請番号となっています。

しかし、言語の問題や対応の迅速さを考慮すると、滞在先のホテルや現地の知人、旅行会社を通じて救急車を手配する方が確実です。

インドでの医療サービスの利用方法

病院での検査

インドで医療サービスを利用する際は、在インド日本国大使館や総領事館が提供する医療機関リストを活用すると、日本人が利用しやすい医療施設を効率的に検索できます。

また、現地在住の日本人コミュニティやSNSを通じて、最新の情報や口コミも収集してみましょう。

病院を選定したら、事前に予約を取ることをおすすめします。多くの私立病院では予約制を採用しており、電話やオンラインでの予約が可能です。

英語でのコミュニケーションが基本ですが、日本語対応が可能な場合もあるため、事前に確認しておくと慌てずに対応できます。

受診当日は、パスポートやビザなどの身分証明書を忘れずに持参してください。

また、保険証券や保険会社の連絡先情報も携帯しておくと安心です。受付では、症状や希望する診療科を伝え、必要な書類に記入します。

その後、指定された待合室で順番を待ちます。診察時には、症状の詳細や既往歴、アレルギーの有無などをできるだけ具体的に伝えることが重要です。

言語に不安がある場合は、事前に症状を英語でまとめておくか、翻訳アプリを活用しましょう。

診察後、医師から処方箋や検査の指示が出されます。処方箋は院内薬局で薬を受け取るか、外部の薬局で購入できます。

会計では、診察費や検査費、薬代をまとめて支払います。支払い方法は現金のほか、クレジットカードを利用できる場合もありますが、事前に確認しておくと安心です。

インドで気をつけるべき病気

医師と聴診器

インドを訪れる際に注意が必要なのは、感染症のリスクです。気候や衛生環境、地域特有の疾病など、日本とは異なる環境に身を置くことになるため、事前の知識と対策が欠かせません。

インドで注意すべき病気とその予防策を解説します。

蚊媒介感染症

インドでは、以下のように蚊を媒介とする感染症が多く報告されています。

  • デング熱
  • マラリア
  • チクングニア熱

上記の病気は、高熱や頭痛、関節痛、場合によっては重篤な症状を引き起こすことがあります。

デング熱は、インドの都市部でも発生が見られ、特に雨季の後(8月末から11月)に感染リスクが高まります。

症状は、高熱、激しい頭痛、目の奥の痛み、筋肉や関節の痛み、皮膚の発疹などです。デング熱には特効薬や予防接種がないため、蚊に刺されないことが最善の予防策となります。

マラリアは、主に農村部や湿地帯での感染リスクが高いですが、都市部でも油断はできません。

マラリア原虫に感染した蚊に刺されることで発症し、高熱、悪寒、発汗、頭痛、吐き気などの症状が現れます。重症化すると生命の危険をともないます。

水系感染症

インドでは、以下のような水を介して感染する疾病も多く報告されています。

  • 腸チフス
  • コレラ
  • A型肝炎

上記の病気は、不衛生な水や食品を摂取することで感染し、激しい下痢や嘔吐、発熱や腹痛などの症状を引き起こします。

腸チフスは、サルモネラ菌の一種による感染症で、高熱や腹痛、発疹などの症状が現れます。治療が遅れると深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

コレラは、コレラ菌による急性の腸管感染症です。大量の水様性下痢を特徴とし、脱水症状が急速に進行し、迅速な水分補給と適切な治療が必要です。

その他の感染症

インドでは、狂犬病も注意すべき感染症のひとつです。野良犬や野生動物に咬まれることでウイルスに感染し、発症してしまうと致死率がほぼ100%の恐ろしい病気です。

犬だけでなく、猫、猿、蝙蝠などからも感染する可能性があるので、インドでは動物に触れないようにしましょう。

狂犬病については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご参照ください。

参照:インドの野良犬は狂犬病のリスクがある|予防策と現地での対応を解説

インドで病気を予防するコツ

ワクチンと注射器

インドでの滞在を健康的に過ごすためには、事前の準備と現地での注意が欠かせません。病気を予防するための具体的な方法を解説します。

渡航前のワクチン接種

インドへの渡航を計画したら、まず厚生労働省が推奨している以下の予防接種を受けることが重要です。

  • A型肝炎
  • B型肝炎
  • 日本脳炎
  • 破傷風
  • 腸チフス
  • 狂犬病

上記のワクチンは複数回の接種が必要なものもあるため、出発の1〜2ヶ月前から医療機関に相談しましょう。

また、持病がある方や長期滞在を予定している方は、主治医と相談して健康診断を受け、自身の健康状態を確認しておくことをおすすめします。

常用薬がある場合は、必要な量を余裕を持って持参し、薬の成分名や処方内容を英語で記載した文書を用意しておくと、現地でのトラブルを避けられます。

外務省が推奨するワクチンは、以下の記事で詳細に解説しているので参照してください。

参照:インドへの渡航前に必要な予防接種は?感染症を予防するコツも解説

徹底した衛生管理

インドでの衛生管理は病気の予防に直結します。飲食する際は市販のボトルウォーターを使用し、開封時にキャップがしっかりと封印されているか確認してください。

レストランで出される氷や生水は避け、加熱調理された食品を選ぶと安全です。

飲食前は必ず手洗いを行い、石鹸と流水でしっかりと洗浄しましょう。アルコール消毒液を携帯すると、手洗いが難しい状況でも衛生を保てます。

特に、食事前後やトイレの後には、手指の清潔を保つよう心がけてください。

蚊や動物への対策

蚊媒介感染症を防ぐためには、蚊に刺されないことが最も効果的な予防策です。肌の露出を減らすために長袖・長ズボンを着用し、虫除けスプレーを適切に使用します。

宿泊先では蚊帳を利用し、窓やドアに蚊の侵入を防ぐ網戸やカーテンがあるか確認しましょう。

野良犬や猫、猿などには近づかず、餌を与えたり触れたりしないよう注意してください。

万が一、動物に咬まれたり引っかかれたりした場合はすぐに患部を流水と石鹸で洗い流し、医療機関で適切な処置を受けることが必要です。

インドの医療機関を受診する際は事前に候補を決めておく

インドの建物

デリーやムンバイなどのインドの都市部には、日本人でも安心して受診できる医療機関があります。

日本語のサポートがある医療機関は限られますが、私立病院は英語に対応しているところがあるので翻訳アプリなどで対応できます。

インドへ渡航する前にワクチン接種を済ませ、万全の状態でインドを楽しんでください。