インドの伝統格闘技「カラリパヤット」解説!その他の人気格闘技も紹介

インドは、その豊かな文化と長い歴史の中で、数多くの伝統的な格闘技を発展させてきました。

カラリパヤットやクシュティーといった古代武術から、近代のMMA(総合格闘技)まで、インド国内の格闘技には驚くほどの多様性があります。

この記事では、インドの格闘技の歴史と種類、カラリパヤットが他の格闘技に与えた影響を解説します。インドの格闘技の魅力を知りたい人は、最後までご覧ください。

インドの格闘技の歴史

格闘家の拳

インドの格闘技は、単なる戦闘技術ではなく、精神修行や宗教的な要素と密接に結びついたものとして発展してきました。

何千年にもわたる長い歴史の中で、インド各地にさまざまな格闘技が生まれ、その多くは戦士たちの訓練や自己防衛のために用いられました。そんなインドの格闘技の歴史を解説します。

インド格闘技の歴史

インドの格闘技の歴史は、一説では紀元前2000年頃までさかのぼるとされており、古代インド文明において戦士たちが身につけた武術が起源です。

中でも最も有名な格闘技であるカラリパヤットは、インド南部のケーララ州で発祥し、世界最古の武術のひとつとされています。

格闘技は主に戦闘技術として使用されていましたが、インドでは宗教的な儀式や体力向上の手段としても活用されました。

カラリパヤットは、武器を使った戦闘技術だけではなく、柔軟性を養う身体訓練や、精神を集中させる瞑想的な要素も含んでいます。

カラリパヤットは空手やムエタイのルーツともいわれ、アジア諸国の格闘技に大きな影響を与えました。

インド格闘技と宗教・哲学の関係

インドの格闘技は、ヒンドゥー教や仏教、ジャイナ教などの宗教哲学と強く結びついています。

上記の宗教では、身体の強さだけではなく、精神の平静さや自己制御を重視しており、格闘技を通じてこれらの価値観が実践されてきました。

例えば、ヒンドゥー教の神々は、戦士としての側面も持ち、武術の精神的な支柱となる存在です。

また、仏教では、心の平穏と集中力が重要とされ、格闘技の修行においても同様の原則が適用されています。こうした宗教的・哲学的な背景が、インドの格闘技をただの戦闘技術以上のものにしています。

カラリパヤットはインドの代表的な格闘技

カラリパヤットの試合

インドを代表する伝統格闘技といえば、カラリパヤットです。カラリパヤットは、インド南部のケーララ州を中心に発展し、現代でも多くの人々に愛されています。

日本では馴染みの薄いカラリパヤットの特徴を紹介します。

カラリパヤットの基本技術と特徴

カラリパヤットは、主に3つの要素で構成されています。まず、基本的な体術として、素手での打撃やキック、投げ技、関節技などが含まれます。

カラリパヤットは、相手を制圧するための実践的な格闘技なので、求められる技術が多いのも特徴です。

次に、武器術として剣やナイフ、棒、盾などを使った攻撃と防御の技術が必要です。最後に、カラリパヤットは精神修行としての要素を持つため、瞑想や呼吸法を通じて精神的な集中力を養います。

上記の要素が融合したカラリパヤットは、戦闘技術と精神的な強さを同時に追求する格闘技として知られています。

カラリパヤットは武器術と体術の融合

カラリパヤットの特徴は、武器術と体術の両方を総合的に学べる点です。武器術では、さまざまな長さや形状の武器を使った技術が重視され、特に剣と盾の組み合わせや、長い棒を使った技術が発達しています。

カラリパヤットはかつて戦場で使用されていた格闘技なので、実戦的なスキルを養うための訓練が行われます。

一方、体術では、素手での格闘技術が中心となり、特に柔軟な動きと力強い打撃が特徴です。

現代の格闘技は打撃のみのボクシングや空手、投げ技のある柔道や柔術、総合格闘技など分野がわかれるのが一般的です。

しかし、格闘技の元祖とも呼べるカラリパヤットはあらゆる格闘技術を身につける必要があります。

インドでカラリパヤットを学べる教室

カラリパヤットは、インド国内の多くの教室で学べます。特に、ケーララ州には伝統的なカラリパヤット教室があり、初心者から上級者まで幅広く学べる環境が整っています。

また、観光客向けの短期コースも提供されており、旅行者がカラリパヤットを体験することも可能です。

近年では、インド国外でもカラリパヤットの人気が高まり、ヨーロッパやアメリカのカラリパヤット教室も増えてきました。

カラリパヤットは身体的な強さと精神的な集中力を同時に養えるため、多くの人々にとって魅力的な格闘技です。

インドのその他の伝統格闘技

レスリングの風景

インドは広大な国土を持ち、各地域で独自の伝統格闘技が発展しています。これから紹介する格闘技は、地域ごとの文化や歴史的背景と深く結びついており、現在でもその伝統が受け継がれています。

北インドのクシュティー

クシュティーは、インドだけではなく、パキスタンやバングラデシュでも人気の格闘技です。

紀元前5世紀ごろのアーリア人の南下とともに、ペルシアの格闘技が伝わったことからクシュティーの歴史は始まりました。

11世紀には現在のクシュティーと同じレスリング形式になったといわれています。近年はインドの農村部を中心に親しまれており、アカーラーと呼ばれる道場で行われるのが特徴です。

クシュティーに寝技はなく、30分の時間内に相手を投げ飛ばしてフォールした者が勝ちます。古代からインドの戦士やレスラーたちは、クシュティーを通じて身体を鍛え、戦闘技術を磨いてきました。

クシュティーのレスリング技術は、体力と柔軟性を兼ね備えた動きが求められ、土のリングでの戦いに適した特有の技術が発展しています。

基本的にはレスリングに似ていますが、裸足や投げ技が中心など、一部日本の相撲にも共通する部分もある格闘技です。

カバディ

カバディは、インド全域で広く行われているチームスポーツ型の格闘技です。

鬼ごっこと格闘技を融合したようなルールが特徴的で、現在は格闘技というよりもスポーツとして親しまれています。

カバディは、攻撃と防御が一体となったスポーツで、攻撃側が相手陣地に入り、相手選手にタッチして戻るというルールにもとづいて行われます。

また、攻撃中はずっと「カバディ」と言い続けなければいけないのも独特なルールです。

防御側は、攻撃側の選手を捕まえて陣地に戻らせないようにするため、体力だけではなく戦略が試される競技です。現在では日本のみならず、世界中でカバディの競技人口が増えています。

インドの格闘技とヨガとのつながり

インドの格闘技と呼吸法

インドの格闘技は、身体の強さを追求するだけではなく精神的な成長や内面的な安定を重視しているため、ヨガとの共通点が多くあります。

特に、カラリパヤットなどの武術では、ヨガの要素を取り入れた技術や思想が広く浸透しており、身体と精神のバランスを保つための手段として実践されています。

カラリパヤットとヨガの共通点

カラリパヤットとヨガは、インドの古代文化の中で発展したもので、共に身体の柔軟性や精神集中を重要視してきました。

カラリパヤットでは、ヨガのポーズに似た動きや呼吸法を重視した動作が多く見られます。これにより、戦闘中に柔軟かつ俊敏な動きを可能にし、パフォーマンスを向上させてくれます。

また、カラリパヤットの訓練ではヨガと同様に、心身のバランスの向上が欠かせません。身体的な技術の向上と同時に、内面の平静さや集中力を高めることが、カラリパヤットでも重要な要素となっています。

呼吸法と瞑想による集中力

インドの格闘技では、戦闘中の冷静な判断や適切なタイミングでの攻撃を可能にするために、呼吸法と瞑想が重要視されてきました。

ヨガの呼吸法であるプラーナーヤーマは、カラリパヤットや他の格闘技にも取り入れられており、戦闘中のストレスや焦りを抑える効果があります。

呼吸を整えることで心を静め、対戦相手に対して適切な反応ができるようになります。

瞑想も、格闘技においては精神的な強さを養うために重要です。瞑想で心を無にし、外部からの影響を最小限に抑えて相手の動きを予測する能力が向上します。

柔軟性とバランスの重要性

カラリパヤットをはじめとするインドの格闘技では、柔軟性とバランス感覚が極めて重要です。

これは、ヨガのポーズや動きにも見られるように、身体の柔軟性を高めることで、より広い範囲での動作や複雑な技術が可能になるためです。

特に、カラリパヤットのようなアクロバティックな動きが多い格闘技では、柔軟な身体が必須で、訓練を通じて身体の可動域を広げて柔軟性を高めることが求められます。

また、バランス感覚も、戦闘時には非常に重要です。バランスを保ちながら動くことで、相手の攻撃をかわしたり素早い反撃が可能になったりします。

こうした柔軟性とバランスを養うことは、インドの格闘技では基本的な技術の一部となっています。

インドでは格闘技を始める女性が増えている

試合前の女性格闘家

インドでは、自己防衛のために格闘技を学ぶ女性が増えています。

都市部を中心に、女性向けの護身術クラスや格闘技のトレーニングプログラムが増えており、格闘技が女性のエンパワーメントの手段としても認識されています。

インドの伝統格闘技は、単なる戦闘技術だけではなく、女性が自分の身を守るための重要なスキルです。

インドの女性に人気の格闘技

インドの都市部では、伝統格闘技のカラリパヤットを学ぶ女性が増加しています。

女性専用の格闘技クラスが設置されている教室も増え、初心者から経験者まで、幅広い層が参加しています。

女性専用のクラスでは単なる攻撃技術だけではなく、防御技術や危機回避のスキルも学べるため、実用的な護身術としての価値が高いためです。

女性講師も増えているので、安心して学べる環境が整っています。

また、短期間で基本的な護身術を学べる集中コースやワークショップも人気があり、働く女性や学生が気軽に参加できるプログラムとして支持されています。

女性がカラリパヤットを習う際、月経中は道場に入れません。体調を考慮しながらスケジュールを調整しましょう。

インドの女性の護身術と格闘技

近年、インド国内では女性に対する暴力や性犯罪が社会問題となり、政府が護身術の普及に力を入れています。インドの女性を取り巻く環境は、以下の記事を参照してください。

参照:インドでレイプ事件が多い原因は?過去の事例と5つの対策についても解説

護身術としては、カラリパヤットやボクシングの技術を取り入れたプログラムが女性向けに開発されています。

格闘技を通じて女性たちが日常生活で安心して行動できる環境を作り出し、犯罪抑止力になることが期待されています。

人気女優のラウトとキックボクシング

インドで女性が格闘技を始める流れを牽引する1人が、人気女優のロパムドラ・ラウトです。

ラウトはかねてから肉体派女優になることを公言し、ジムでキックボクシングを習っていました。日々のトレーニングは自身のInstagramやインタビューを通じて発信しています。

彼女の影響によって多くの女性ファンが格闘技に興味を持ち、キックボクシングやカラリパヤットは女性の間で急速に人気を集めています。

インドの格闘技が影響を与えた他国の格闘技

キックボクシングの練習

インドの伝統的な格闘技は、他国の武術に対しても大きな影響を与えました。特に、カラリパヤットはアジア各国の武術に影響を与えたとされ、その技術や哲学は多くの格闘技に取り入れられています。

インドのカラリパヤットと中国拳法

少林寺拳法や中国の武術が発展する過程で、インドのカラリパヤットの技術が取り入れられたという説があります。

伝説によれば、インドから中国に渡った僧侶が少林寺拳法の創始に関与したとされ、カラリパヤットの柔軟性や戦術が少林寺拳法の基礎となった可能性が示唆されています。

また、両者は単なる戦闘技術にとどまらず、精神的な成長や内面の修行を重視してきました。

呼吸法や瞑想を取り入れた修行法は、カラリパヤットも中国武術も共有しており、これが両者の深いつながりを示しています。

インドが影響を与えたアジア諸国の格闘技

インドの格闘技は、東アジアや東南アジアの多くの国々にも影響を与えました。

例えば、タイのムエタイや日本の空手などにも、インドの格闘技の要素が含まれているといわれています。

インドの貿易路が近隣諸国に広がる中で、カラリパヤットをはじめとするインドの格闘技がアジア全域に伝播し、各地で取り入れられました。

また、インドの格闘技は、攻撃と防御をバランスよく組み合わせた技術体系が特徴で、このスタイルが他のアジア武術に影響を与えたとされています。

インドの格闘技は空手や中国武術にも影響を与えてきた

蹴りの練習をする格闘家

インドの格闘技は何千年にもわたる歴史の中で発展し、戦闘技術だけではなく、精神修行や文化的要素も欠かせません。

カラリパヤットやクシュティーといった伝統格闘技は、インドの地域ごとの特色を反映しており、今もなおその技術と哲学が次世代に受け継がれています。

現代では、伝統的な格闘技と共にMMAやボクシングといった新しいスタイルの格闘技もインド国内で急速に普及し、多くの若者がプロの格闘家を目指しています。

また、インドの格闘技は女性の護身術としても注目され、国内で格闘技を始める女性が増えました。

インドの格闘技は、身体的な強さと精神的な修行を両立させる独自の文化で、その技術と哲学は今もなお進化を続けています。