インドで大地震が多発する理由|被害状況と地震対策について解説

インドは過去に何度も大規模な地震に見舞われてきました。そして、インドの大地震は多くの人命を奪い、建物やインフラに甚大な被害をもたらしてきました。

本記事では、インドで発生した歴史的な大地震の被害状況とインドの地震対策について解説していきます。

インドで大地震が多発する理由

倒壊した店

現在のインドを含むインド亜大陸は、地質学的に非常に複雑な地域です。もともとは独立した大陸だったインド亜大陸は、約5,000万年前からユーラシア大陸に向けて北上を開始しました。

この過程でインドプレートがユーラシアプレートに衝突し、現在のヒマラヤ山脈が形成されました。

インドプレートは、年間約6cmの速度でユーラシアプレートに向かって北上を続けています。この移動によって、両プレートの境界に大きな力が蓄積されます。

蓄積された応力が限界に達するとプレート境界で急激な滑りが生じ、大地震が発生する仕組みです。

ヒマラヤ山脈の形成は現在も進行中であり、それに伴って地震活動も活発です。インド北部やネパール、ブータンなどのヒマラヤ山脈周辺国では、マグニチュード8クラスの大地震が繰り返し発生しています。

また、インド亜大陸の東部と西部には、それぞれビルマプレートとアラビアプレートが存在しています。これらのプレートもまた、インドやその周辺で大地震を引き起こす要因の1つです。

インドプレートは、この地域の地震活動を理解する上で非常に重要な要素です。プレート運動に起因する応力の蓄積と解放が、大地震の発生メカニズムの根本原因となっているためです。

インドで過去に発生した大地震

瓦礫の山

インドでは、これまでに以下のような大地震が発生しています。

  • ビハール・ネパール地震(M8.0)
  • アッサム地震(M8.6)
  • ラトゥール地震(M6.2)
  • グジャラート地震(M7.7)
  • カシミール地震(M7.6)

それぞれの大地震の被害状況について解説していきます。

1934年ビハール・ネパール地震(M8.0)

1934年1月15日、インド北東部のビハール州に近いネパール東部を震源とするマグニチュード8.0の大地震が発生しました。この地震により、インドのビハール州とネパールで合わせて約10,600人が死亡し、多数の建物が倒壊しました。

ビハール州にあった仏塔の中には、高さ35mあったものが地震の影響で6mになったとの話もあります。

地震発生後、被災地では救援活動が行われ、復興に向けた取り組みが進められました。しかし、当時の技術的限界から再建された建物の多くは耐震性に乏しく、後の地震でも被害を受けやすくなっています。

1950年アッサム地震(M8.6)

1950年8月15日、インド北東部のアッサム州を震源とするマグニチュード8.6の大地震が発生しました。アッサム地震は、20世紀にインドで発生した地震の中で最大規模、20世紀の地震で6番目の規模となっています。

アッサム地震による死者は約1,500人に上り、多数の建物が倒壊しました。さらに、地震によって引き起こされた地滑りにより、河川がせき止められ、大規模な洪水が発生しました。

洪水によって周辺の村がいくつも飲み込まれ、被害が拡大したことが分かっています。アッサム地震はインドの地震史において、最も大きな事例の一つとして語り継がれています。

1993年ラトゥール地震(M6.2)

1993年9月30日、インド西部のマハラシュトラ州ラトゥールを震源とするマグニチュード6.2の地震が発生しました。インド政府の発表では、この地震によって9,748人が死亡し、多数の建物が倒壊しました。

マハラシュトラ州近辺では耐震性が低い日干し煉瓦造りの建物が多かったため、建物の倒壊によって死者が多数出たことがわかっています。

ラトゥール地震はインドの他の大地震よりもマグニチュードそのものは低かったものの、被害が大きかったことからその後の建物建築にも大きな影響を与えました。

参照:インド住宅の特徴は?伝統的な中庭式住宅と住宅選びのポイントについて解説

2001年グジャラート地震(M7.7)

2001年1月26日、インド西部のグジャラート州を震源とするマグニチュード7.7の大地震が発生しました。インド政府によると、この地震によって16,403人が死亡し、68,478人が負傷しました。

グジャラート地震は近年のインド大地震の中でも特に被害が大きかったため、国民の記憶にも鮮明に残っています。インド政府は国際社会からの支援を受けながら、大規模な救援・復興活動を展開しました。

グジャラート地震は、インド政府や国民の防災意識を大きく変えた出来事として知られています。

2005年カシミール地震(M7.6)

2005年10月8日、インドとパキスタンの係争地域であるカシミールを震源とするマグニチュード7.6の大地震が発生しました。この地震によってインド側で1,309人、パキスタン側で73,338人が死亡しています。

震源地が山岳地帯だったため、集落が寸断され救助活動が難航したことも大きな話題になりました。建物の倒壊だけでなく道路にも甚大な被害が出たことで、復興に時間を要しています。

その後、2019年にも同地区でマグニチュード5.6の地震が発生し、橋の倒壊や建物の倒壊が報じられています。

スマトラ沖地震ではインド国内に深刻な被害が発生

津波の発生

2004年12月26日に発生したスマトラ沖地震は、インドネシアのスマトラ島沖を震源とする巨大地震でした。この地震のマグニチュードは9.0で、日本で2011年に発生した東日本大震災と同じクラスの大地震です。

スマトラ沖地震で発生した津波がインド国内に

この地震に伴って発生した津波は、インドネシアだけでなくインド洋沿岸各国に甚大な被害をもたらしました。インドもまた、津波による深刻な被害を受けた国の1つです。

インドでは、地震発生から約2時間後に津波が到達しました。特に被害が大きかったのは、インドネシアに近い南部のタミル・ナドゥ州とアンダマン・ニコバル諸島です。

タミル・ナドゥ州では、州都チェンナイを含む沿岸部が津波に襲われました。多くの住宅や建物が損壊し、漁港や観光施設なども大きな被害を受けています。

アンダマン・ニコバル諸島では、津波によって島々の大部分が水没し、多数の死亡者と行方不明者を出しました。特に、ニコバル諸島の被害が大きかったと伝えられています。

ニコバル諸島では先住民的な生活を送っていましたが、スマトラ沖地震の復興支援で先進国の物資が送られたことで生活が一変してしまいます。アルコールに溺れてしまったりうつ症状に悩まされる人が増加したりと、2次被害も深刻です。

スマトラ沖地震でのインド政府の支援

インド政府は、スマトラ沖地震発生後に海外からの支援は不要と発表しました。自国での復興を目指したインド政府は、早期に食料や医薬品の提供を行います。

しかし、支援物資として送られた米は古米で虫が湧いていたり臭いがしたりと満足できるものではありませんでした。同時に、中・長期的には海外からの支援を受けることを発表し、国際社会からの支援を受けて復興事業を進めます。

インド沿岸部では今なお、津波に対する脆弱性が懸念されています。急速な都市化と人口増加によって災害リスクは増大しつつあり、ハードとソフト両面からの防災対策を継続的に実施していくことが重要です。

インドの大地震と日本の支援

地震の復旧作業

インドで発生した大規模な地震に対し、日本政府や日本の各種団体は、様々な形で支援を行ってきました。日本とインドは地震国であるという共通点を持ち、防災分野での協力関係を築いています。

グジャラート地震での支援

2001年1月に発生したグジャラート地震では、日本政府は地震発生直後に国際緊急援助隊を派遣し、救助活動や医療支援を行いました。日本の救助チームは、倒壊した建物からの生存者の救出に尽力し、医療チームは負傷者の治療や公衆衛生の確保に努めました。

以下、日本がインドに行った資金や物資の支援内容です。

1月27日70万ドルの緊急無償援助及び約3,000万円相当の援助物資の供与を決定(テント25張、毛布6,000枚、医薬品、医療資機材等)
2月4日約7,140万円相当の援助物資の供与を決定(テント441張、毛布4,475枚)
2月6日追加援助として、新たに230万ドルの緊急無償援助の供与を決定

引用:外務省「インド西部における地震災害の状況と日本の支援について」

また、日本赤十字社や各種NGOも現地で活動し、被災者支援に尽力しました。日本赤十字社は合計5,615名の患者を診察しています。

その他の団体も食料や水、毛布などの物資を配布し、被災者の生活を支えました。復興段階では日本の建築技術を活かし、耐震性の高い建物の建設が行われたり、被災した学校の再建支援を通じて子供たちの学習環境の回復に貢献したりしています。

協力関係を深めるインドと日本

日本の支援は、インドの災害対応力の向上に大きく貢献しました。これらの支援活動を通じて、日本とインドの防災分野での協力関係は一層深まっています。

両国は、防災科学の発展や災害に強い社会の構築に向けて、継続的に協力していくことが期待されています。

インドと日本は、地震国として共通の課題を抱えています。両国が協力して地震や津波から人々の生命と暮らしを守る取り組みを続けていくことが重要です。

インドと日本は経済や安全保障面でも協力関係を築いていますが、防災面でも協力することでより一層信頼関係を強固なものにできるでしょう。

インドも日本も常に大地震への備えが必要になっているので、万が一の事態に備えてお互いを支え合う関係性は今後も維持していくと予測されます。

参照:日本とインドの関係|新旧の経済大国の今後についても解説

インド政府の地震対策

災害対策をするインド政府関係者

インドは地震多発国であり、近年も大規模な地震が不定期に発生しています。こうした状況を踏まえ、インド政府は様々な地震対策に取り組んでいます。

モディ首相の10のアジェンダ

モディ首相は、2016 年にニューデリーで開催された「災害リスク軽減に関するアジア

閣僚会議(AMCDRR)2016」で以下の10のアジェンダを打ち出しました。

  1. 全ての開発部門が災害リスク管理の原則を取り込まなければならない。
  2. リスク補償は、貧困世帯、中小企業、多国籍企業、国家まで、全てを対象とする必要がある。
  3. 女性のリーダーシップと幅広い関与が災害リスク管理の中心になるべきである。
  4. 国際的な自然災害リスクの理解を向上させるため、世界各地のリスクマップ作成に投資する。
  5. テクノロジーを駆使して、災害リスク管理活動の効率化を図る。
  6. 災害に関連する課題に取り組む大学ネットワークを構築する。
  7. 災害リスク軽減のために、ソーシャルメディアやモバイル技術から提供される機会を活用する。
  8. 災害リスク軽減を強化するために、地域の能力とイニシアティブを高める。
  9. 災害から学ぶためのあらゆる機会を活用し、そのために、全ての災害から教訓を学ぶ。
  10. 災害に対する国際的な対応に、より大きな結束力を持たせる。

上記の項目は、2019 年に改定された「国家災害管理計画(NDMP)」にも反映されています。モディ首相は、政府が主体となって防災対策に取り組んでいくことを国民や世界に発表し、度々発生する大地震と向き合っていくことを表明しました。

参照:国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 REDD プラス・海外森林防災研究開発センター「森林を活用した防災・減災の取組Country Report 2021 年度インド共和国」

インドの災害管理に関する政策

インドでは、自然災害発生時の災害管理を徹底するために国家災害管理政策(NPDM)を制定しました。

国家災害管理政策(NPDM)(2009)

国家災害管理政策は、インド国内で発生した自然災害の総合的な管理を定めた政策です。2009年10月22日に国会承認を得て発行され、国内の自然災害の予防、準備、被害軽減および緊急対応に関する対策をまとめています。

国家災害管理政策の項目は以下の通りです。

  • 組織・法制度整備
  • 財政
  • 災害予防・軽減・準備
  • 技術的法制度の整備
  • 緊急対応
  • 復旧
  • 復興
  • キャパシティー・ディベロップメント
  • ナレッジ・マネージメント
  • 研究開発

上記の項目は、前述のモディ首相の10のアジェンダと密接に関わっています。

参照:JICA 独立行政法人国際協力機構「インド国防災に関する情報収集・確認調査」

まとめ:インドはプレートの影響で地震大国になっている

倒壊した住宅

インドでは、インドプレートがユーラシアプレートに向かって北上を続けているため、不定期に大地震が発生しています。インドでは煉瓦作りの建物も多く、大地震が発生する度に国民は大きな負担を強いられてきました。

インド政府は国家災害管理政策(NPDM)を制定し、自然災害が発生した際に災害管理を徹底できる環境を構築しています。モディ首相もアジア閣僚会議でアジェンダを発表するなど、国内外に災害と向き合っていくことをアピールしました。

今後もインドでは不定期に大地震が発生すると予測されていますが、自然災害が発展を続けるインドの足かせにならないことを祈ります。