インドは人口が世界最多になったことで有名ですが、現在は野良犬の数も増加しています。
野良犬と聞くと可愛いと感じる人もいるかもしれませんが、インドの野良犬は命に関わる深刻な病気を引き起こす可能性があるため、うかつに触ってはいけません。
今回は、インド旅行を計画している人のために、インドにいる犬の現状と危険性について解説します。
記事の監修者
インドの野良犬の現状
インドの野良犬問題は深刻化していて、解決するためには政府と市民の協力が必要です。インドの野良犬の現状について詳しく解説します。
インドの野良犬の統計データ
インドの通信社PTIでは、推定で6200万頭以上の野良犬が生息していると考えられています。
野良犬は年々増加し、都市部を中心に各地で問題になっています。野良犬は特にムンバイやデリーなどの大都市での増加が深刻になってきているのが現状です。
大都市では人々が食べ残しを無造作に捨てるため、犬たちの餌が豊富で繁殖しやすくなっています。
また、野良犬は避妊手術やワクチン接種が十分に行われていないので、繁殖を繰り返して増加しています。
インドの野良犬が引き起こす問題
インドの野良犬がもたらす一番の問題は、狂犬病です。狂犬病は水と風を極端に恐れるという変わった症状を引き起こします。
現在の医療では狂犬病の治療法は存在しないので、一度感染してしまうと命を落とす怖い病気です。
狂犬病に感染している犬は、ヨダレをダラダラと垂らしていたり手当たり次第に噛みついてきたりします。凶暴な犬と路上で出会ったら、近づかずにすぐ逃げましょう。
インドで深刻な狂犬病を徹底解説
インドの野良犬は狂犬病のリスクがあると解説しましたが、ここでは狂犬病についてさらに詳しく解説します。
インドを訪れる予定がある人は、必ず狂犬病について予備知識を入れておきましょう。
狂犬病の感染経路
狂犬病は主に感染した動物の唾液を介して人へと伝染します。最も一般的な伝染経路は犬に咬まれることですが、引っかき傷や傷口に唾液が触れることでも狂犬病へと感染する可能性があります。
世界の狂犬病の1/3はインドで発生しているといわれている通り、インドでは狂犬病の発生件数が異常に多いことが問題です。
大都市を中心に、路上に数多くの野良犬が生息し、その犬から咬まれたされて狂犬病に感染する事例が後を絶ちません。
犬は狂犬病ウイルスに感染すると、脳でウイルスが増えていき、思考や行動に異常をきたすようになります。
潜伏期間は、1週間から3ケ月くらいが一般的です。ウイルスの量によっては、1週間から1年くらいまで潜伏期間に幅があるので注意しましょう。
狂犬病の有無に関わらず、インドで犬に咬まれた際はすぐに専門医に相談することが命を守る上で大切です。
狂犬病の初期症状と進行
狂犬病の初期症状には、以下のような症状があります。
- 発熱
- 頭痛
- 疲労感など
その後、咬まれた部位の痛みやしびれ、筋肉のけいれんなどを起こし、やがて錯乱、幻覚などの神経症状が現れます。
症状が進行していくと致命的な脳炎を引き起こし、最終的には命を落とすことになります。
インドで犬に咬まれた後に風邪のような症状が出てきたら、すぐに適切な治療を受けましょう。
狂犬病による健康被害と死亡率
狂犬病は一度発症すると致死率が100%といわれている通り、治療方法が存在しません。
WHO(世界保健機関)によると、毎年世界中で約5万人を超える人が狂犬病で亡くなっていて、インドやバングラデシュを含むアジア地域で特に多く発生しています。
犬への抵抗感が少ない子どもが被害に遭いやすいのも、狂犬病の懸念事項です。
インドで犬に咬まれた場合の対処法
インドに滞在中に犬に咬まれた場合は、ただちに医療機関を受診する必要があります。
その際に、少しでも症状を軽くするための対処法を解説します。
野良犬に咬まれたを受けた直後の対応
野良犬に咬まれた場合、最初に行うべきことは傷口の徹底的な洗浄です。
咬まれた部位を石鹸と水を使って少なくとも15分間洗い流すことで、感染リスクを減少できます。洗浄後、傷口を清潔な布やガーゼで覆い、すぐに医療機関を受診することが重要です。
医療機関では「レイビーズ(狂犬病)」と伝えることで、緊急対応してもらえる確率が高くなります。
医療機関での治療
医療機関では、以下の手順で治療が行われます。
- 消毒と傷の処置
- 狂犬病ワクチンの接種
- 破傷風トキソイドの接種
医療機関に着いたら、医療従事者が傷口をさらに徹底的に消毒し、必要に応じて傷口を縫合します。
次に、狂犬病を発症しないようにワクチン接種が行われます。通常、咬まれた後に即時のワクチン接種が推奨され、以降、数回にわたる追加接種が必要です。
狂犬病のワクチンを接種したら、接種状況に応じて破傷風トキソイドの接種も行います。適切な予防接種を受けていれば、ほぼ100%破傷風を防止できます。
経過観察
初回の治療後も、医師の指示に従って継続的に経過観察を行うことが重要です。ワクチン接種スケジュールを守り、すべての接種が完了するまで医療機関を定期的に訪れます。
また、傷の状態を観察し、感染の兆候が見られた場合は速やかに医師に相談しましょう。
日本からインドへ行く際の狂犬病対策
日本から初めてインドを訪れる際は、どのような狂犬病対策をしたらいいか分からないでしょう。
そこで、外務省が推奨する狂犬病対策を紹介します。対策を徹底し、万が一インドで野良犬に咬まれても発症を防ぐことが大切です。
ワクチン接種の重要性
外務省のWebサイトによると、インドの狂犬病の死者は年間2万人を超えていると記載されています。
そのため、インドへ渡航する際は、近くの医療機関で狂犬病のワクチン接種が必要です。外務省は渡航前に3回の接種を推奨していますが、WHOは最低でも2回以上の接種が重要と明言しています。
日本では愛犬への予防接種も進んでいるため、狂犬病を発症することはありません。しかし、アジアやアフリカなどの途上国では、街中に狂犬病を持った野良犬が徘徊している可能性が高くなります。
必ず医療機関で狂犬病のワクチン接種を済ませてから、インドへ出発しましょう。
野良犬への予防接種
インドでは政府やNGOが協力して、野良犬に対する予防接種プログラムを実施しています。これにより、野良犬の狂犬病感染率を下げ、国内外に安全をアピールすることが目的です。
しかし、十分な予算や人員が確保されていないため、実施には課題が残っています。予防接種が必要な野良犬は年々増加し、対応が追いついていないのが現状です。
インドで野良犬の保護活動をしている団体
インドでは野良犬の数が非常に多く、その数は6200万頭以上とも言われています。これらの野良犬は飢餓、病気、事故、虐待など多くの問題を抱えています。
こうした状況を改善するために、インドでは多くの団体が野良犬の保護活動に取り組んできました。インドの野良犬を守っている団体について、解説します。
Animal Welfare Board of India (AWBI)
Animal Welfare Board of Indiaは、1962年に設立された委員会です。野良犬の保護活動を行うとともに、動物の権利擁護に関する法律の制定などにも取り組んでいます。
各地の動物愛護団体と協力し、野良犬の去勢・避妊手術や負傷した野良犬の治療なども行っています。去勢・避妊手術は、野良犬の数を減らすために非常に重要な取り組みです。
People for Animals(PFA)
People for Animalsは、1992年に設立されたインド最大の動物愛護団体です。設立者は、インドの著名な動物愛護活動家であるManeka Gandhiです。
PFAは、全インドに165の支部を持ち、数多くのボランティアが活動に参加しています。野良犬の保護や治療、譲渡などを行うとともに、動物虐待の防止や動物愛護の啓発活動も積極的に行っています。
特に、野良犬の数を減らすために去勢や避妊手術を積極的に実施しています。これは、野良犬の繁殖を防ぐために非常に重要な取り組みです。
PFAの動物病院では、これまでに数多くの野良犬が手術を受けています。
Friendicoes SECA
Friendicoes SECAは、インドの首都デリーを中心に活動する動物愛護団体です。長年にわたって野良犬の保護や治療、譲渡などに取り組んでいます。
特に、狂犬病予防のためのワクチン接種キャンペーンを実施するなど、特に野良犬の健康管理に力を入れています。
Visakha Society for Protection and Care of Animals(VSPCA)
Visakha Society for Protection and Care of Animalsは、インド南部のアーンドラ・プラデーシュ州を中心に活動する動物愛護団体です。
これまでに行った避妊去勢手術は180,300件にのぼりました。野良犬の保護や治療、譲渡などを行うとともに、動物の権利擁護に関する啓発活動なども行っています。
地域に根ざした活動を通じて、野良犬問題の改善に取り組んでいます。
Red Paws Rescue
Red Paws Rescueはニューデリーを拠点とする動物保護団体で、主に野生動物の救助や治療、再ホーム化に取り組んでいます。
この団体はSadhwi Sondhiによって設立されました。彼女は17歳のときに動物保護活動を開始し、組織の名前は彼女の愛犬Redに由来しています。
Red Paws Rescueは負傷または病気の動物を救助し、回復センターで適切な医療を提供してきました。回復後、動物たちは元の場所に戻されるか、新しい家を見つけるために譲渡されます。
また、ニューデリーの各地で野良動物の去勢や避妊手術も実施しており、動物の過剰繁殖を防ぎつつ、動物と人間それぞれの安全を守っています。
インドの野良犬についてよくある質問
インドにこれだけ野良犬が多いのは、宗教と関係あるのでは?と考える人もいます。
インドの犬についてよくある質問をまとめたので、参考にしてください。
ヒンドゥー教と犬の関係は?
ヒンドゥー教において、犬は神聖な動物として扱われています。ヒンドゥー教では、人が亡くなると、その魂は冥界へと旅立つと信じられています。
その際、死者の魂を冥界へと導く案内役として登場するのが、犬です。犬は死者の魂を守り、冥界への道を示すという役割を担っているためです。
このようなヒンドゥー教における犬の位置づけから、多くのヒンドゥー教徒は犬を敬い、大切にする傾向があります。犬は単なるペットではなく、神聖な存在として扱われ、ヒンドゥー教の教えの中で重要な役割を果たしているのです。
ヒンドゥー教については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インドの宗教と進出の関係について解説!気をつけるポイントについても紹介
インドの野良犬はどの犬種ですか?
インドの野良犬の多くは、特定の犬種に分類されるものではなく、雑種です。これらの雑種犬は、長い年月をかけて自然交配を経ており、インドの気候や環境に適応した体質を持っています。
インドの野良犬の外見的特徴としては、中型の体格で短い毛を持つことが多く、毛色は茶色や黒が多く見られます。しかし、野良犬の外見は個体差が大きいため、一概には言えません。
中には、純血種に近い特徴を持つ野良犬も存在します。これは、過去に飼われていた犬が野良犬化したケースや、純血種の犬が野良犬と交配したケースなどが考えられます。
インドのパリア犬とは?
パリア犬はインド原産の古代犬種の1つで、現在のインドの野良犬の祖先犬であると考えられています。「パリア」という名称は、ヒンドゥー教のカースト制度において最下層に位置づけられる人々を指す言葉です。
パリア犬は、このような身分の低い人々と共に生活してきたことから、この名前が付けられました。
現在のインドの野良犬には、このパリア犬の血統が色濃く受け継がれていると考えられています。パリア犬の持つ適応力や強靭さが現在のインドの野良犬にも受け継がれており、過酷な環境下でも生き抜いていると推測されています。
パリア犬はインドの人々と長い年月をかけて共生してきた犬種であり、インドの文化や風習の中で重要な役割を果たしてきました。
現在でも、パリア犬はインドの野良犬の中で独特の地位を占めていて、インドの人々に愛されている存在です。
まとめ:インドの野良犬は狂犬病のリスクがある
インドは、世界で最も狂犬病の死亡者の多い国です。街中に野良犬が多く徘徊しているため、襲われるケースもあります。
インドへ渡航する前には、狂犬病のワクチン接種を3回行ってから出発しましょう。外務省は3回、WHOは2回以上のワクチン接種を推奨しています。
万が一、現地で犬に咬まれた際はすぐに医療機関を訪れ、「レイビーズ(狂犬病)」と伝えて早急に検査をしてもらいましょう。インドの街で犬を見かけても、決して近づかずに離れることをおすすめします。
インド旅行については、以下の記事でも詳しく解説しています。