インドで起きたサイクロン被害の事例|サイクロンとハリケーンの違いも解説

インドでは度々大きな自然災害が発生し、その都度大きな被害が出ています。その中でも、サイクロンは広範囲に被害を及ぼしていますが、具体的な対策が講じられていないのが現状です。

今回は、インドで起きたサイクロン被害の事例とハリケーンや台風との違いについて解説します。

サイクロンの定義とハリケーンとの違い

巨大な積乱雲

「サイクロンとハリケーンの違いを教えてください」

どちらも暴風がともなうのは理解できても、明確に回答するのは簡単ではありません。まずはサイクロンの定義とハリケーンとの違いを気象庁の情報をもとに解説します。

サイクロンの定義と特徴

サイクロンは、インド洋や南太平洋に発生する熱帯低気圧です。サイクロンの特徴は、猛烈な風と豪雨をともなう点です。

北インド洋と南太平洋および南東インド洋では、最大風速17m/s以上になるとサイクロンと呼ばれます。

インドや隣国のバングラデシュでは、年々サイクロンの上陸が増えているため、国民にとって脅威となっています。

サイクロン・ハリケーン・台風の違い

サイクロンとハリケーンはどちらも暴風と豪雨が特徴ですが、主な違いは発生場所です。サイクロンはインド洋や南太平洋で発生し、ハリケーンは北大西洋や北東太平洋で発生します。

さらに、ハリケーンの定義は最大風速33m/s以上なので、サイクロンよりも強いことが多いのが特徴です。

そのため、インドやバングラデシュで発生するサイクロンよりも、アメリカ大陸で発生するハリケーンのほうが規模や被害が大きくなります。

日本の気象庁によると、台風の定義は最大風速17m/s以上なので、規模としてはサイクロンと同程度になります。

インドに上陸した大型サイクロン「レマル」の被害状況と対応

巨大なサイクロン

インドはベンガル湾やアラビア海に面しているため、地理的に見てサイクロンが発生しやすい国です。

そのため、インドではサイクロン被害が多く、国民の生活や生命に大きな影響を与えています。インドの最新のサイクロン情報を紹介します。

2024年に発生した大型サイクロン「レマル」の被害状況

2024年5月、ベンガル湾で大型サイクロン「レマル」が発生し、インドとバングラデシュの両国に甚大な被害をもたらしました。

被害の中心となったのはインドの西ベンガル州とバングラデシュ南部で、以下のような被害が報告されています。

死者数少なくとも10人以上
避難者数約10万人
家屋被害15万棟以上
停電大規模停電が発生

レマルの最大風速は111km/hに達し、沿岸地域の家屋やインフラに大きなダメージを与えました。

特に西ベンガル州の州都コルカタやバングラデシュの首都ダッカでは、暴風による家屋の倒壊や冠水、停電が相次ぎました。

サイクロン「レマル」の復興状況と現地の対応

サイクロン被害を受けたインドとバングラデシュでは、早急な復興活動が進められています。

電力などのインフラは順次復旧していますが、倒壊や半壊してしまった家屋の再建や補修には時間がかかっています。

そのため、現在も避難生活を余儀なくされている人が少なくありません。インドでは、サイクロンの他に大地震も頻発しているため、住居が不安定な国民が多いのも問題です。

インドの大地震の事例については、以下の記事で解説しています。

参照:インドで大地震が多発する理由|被害状況と地震対策について解説

インドの過去のサイクロン被害とその影響

竜巻被害

インドではこれまでにも度々大型サイクロンが上陸し、甚大な被害を受けています。

  • 1999年:オリッサ・サイクロン
  • 2013年:サイクロン・ファイリン
  • 2019年:サイクロン・ファニ
  • 2020年:サイクロン・アンファン

年々大型サイクロンの上陸頻度が高くなっているのがわかるでしょう。過去の大型サイクロンの被害状況を解説します。

1999年:オリッサ・サイクロン

1999年に発生した「オリッサ・サイクロン」(別名:1999年スーパーサイクロン)は、当時のインド史上最悪のサイクロン災害でした。

死者数約1万人
被災者数1,300万人以上
家屋被害約80万棟が全壊または半壊

オリッサ・サイクロンは最大風速252km/hと非常に強力で、インド東部のオディシャ州に甚大な被害をもたらしました。

沿岸部では高潮による浸水も発生し、広範囲で電力や通信が途絶えたため、人々が復旧するまでに多くの時間を要しています。

この災害をきっかけに、インド政府はサイクロン対策を強化し、避難所の整備を進めました。

2013年:サイクロン・ファイリン

2013年には「サイクロン・ファイリン」がインド東部を襲いました。

死者数46人
避難者数100万人以上

ファイリンはオリッサ・サイクロン以来の大型サイクロンで、最大風速260 km/hといわれていましたが、政府が早期に避難指示を出したため人的被害を最小限に抑止できました。

オリッサ・サイクロンで甚大な被害を出した教訓を活かせたことと、インドの防災意識が高まっていることを証明できました。

2019年:サイクロン・ファニ

「サイクロン・ファニ」は2019年にインドを襲い、甚大な被害をもたらしました。

死者数64人
被災者数数百万人以上

サイクロン・ファニのインド上陸時の最大風速は180〜190km/hと強く、インド政府は上陸前から避難指示を出していました。

サイクロン・ファニは、西ベンガル州とオディシャ州に特に大きな被害を与え、強風によって家屋やインフラが広範囲に破壊されました。

2020年:サイクロン・アンファン

2019年のサイクロン・ファニに続いて、2020年にはサイクロン・アンファンがインドとバングラデシュを襲いました。

死者数103人
被災者数1,000万人以上

サイクロン・アンファンの上陸時の最大風速は130km/hで、西ベンガル州に再び大きな被害をもたらしました。

前年のサイクロン・ファニから復興途中だった地域もあったため、ファニよりも弱い風速でも家屋の倒壊が増える結果となります。

また、当時は世界的なパンデミックだったため、通常のサイクロンよりも避難活動が困難な上に避難所での感染症対策も必要となりました。

サイクロンへの備えとインド政府の対策

防災サイレン

インドでは年々サイクロンの上陸頻度が増えていることから、政府主導で対策を講じました。サイクロンからインド国民を守るための対策を2つ紹介します。

早期警報システム(EWS)の改善

サイクロンが発生する可能性があると、インド気象庁は早期に警報を発令し、住民に避難指示を出します。

この早期警報システムは年々改善されていて、気象衛星を利用してサイクロンの進路予測を精密に行っています。

アフリカ・アジアの地域自然災害防災総合システム(RIMES)に加盟しているインドは、度重なる自然災害から国民を守るために避難指示の仕組みと早期の警報システムを採用した結果、サイクロン・ファニが上陸した際に120万人の避難に成功しました。

サイクロンシェルターと防災教育

沿岸地域には、サイクロンシェルターと呼ばれる専用の避難施設が建設されています。サイクロンシェルターは、サイクロンが接近した際に住民が安全に避難できるように設計された施設です。

インドではサイクロンシェルターの整備だけではなく、地域住民に対する防災教育や避難訓練も定期的に行われており、災害時にどのように行動すべきか周知されています。

サイクロン被害の健康リスクと国際支援

会議をする国際機関

サイクロンは、直接的な家屋の倒壊や怪我だけではなく、二次被害も深刻になります。

  • ユニセフなどの国際支援
  • 経済的影響と生活再建の課題
  • 今後の課題と長期的な対策

サイクロン被害と国際支援に着目してみます。

ユニセフなどの国際支援

サイクロンが発生すると、暴風や大雨により水の供給や衛生状況が悪化し、感染症が発生するリスクが高まります。

特に、生活になくてはならない安全な飲み水が不足しやすく、避難所は下痢やコレラなどの感染症が蔓延しやすい状況になります。

ユニセフやNGOは、サイクロン発生後にインドの被災地に迅速に支援物資を送ったり、水や食料の配給、衛生設備の確保を行ったりしてきました。

ユニセフは、サイクロンによって影響を受けた子どもたちや高齢者への重点的な支援を行い、衛生キットや医薬品を提供しています。

また、ユニセフや世界保健機関(WHO)は医療機関が倒壊した地域に医療チームを派遣し、人的支援を行っています。

経済的影響と生活再建の課題

サイクロンがインドに与える経済的影響は甚大です。特に、農業や漁業、観光業などが収入源の沿岸地域では、サイクロンによる経済的影響が大きくなります。

サイクロンは大雨や強風をともなうので、作物を育てている田畑が浸水し、壊滅的な被害を受けます。

作物が収穫できなくなるので、農業従事者の収入源が失われてしまい、田畑が復旧するまで長期的な経済支援が必要です。

漁業も大きな被害を受けます。サイクロンが上陸すると、船や漁具の破損、さらには海の荒れた状態が続くことで漁ができない期間が発生するためです。

サイクロンで家屋の倒壊が多くなると、当然観光客はやってきません。生活再建の課題としては、住民の家屋の再建や仕事の回復が急務です。

インド政府や国際機関が提供する支援だけでは十分ではないことも多く、住民一人ひとりが元の生活を取り戻すには長期間の支援と復興活動が必要です。

今後の課題と長期的な対策

サイクロンによる被害は年々増加し、近年は毎年のようにインドを襲っています。その背景には、地球規模の気候変動によって発生頻度や強度が増しているという指摘があります。

サイクロンの被災地で重要なのは、被害を最小限に抑えるためのインフラ強化です。特に、沿岸部の堤防やサイクロンシェルターの拡充が必要です。

堤防を設置できると、高潮や大雨による沿岸地域の被害を軽減できます。

また、住民が適切な避難行動を取るためには、定期的な防災訓練や教育活動が必要です。

政府は、学校や地域コミュニティを通じて、サイクロンに対する意識を高める取り組みを進めています。

インドでサイクロンが発生しやすい時期は10月~5月

気象衛星が捉えたサイクロン

インド洋で発生するサイクロンは、10月から5月の間に多く発生します。

これは主に、インド洋の季節的な気候パターンや海水温の変動が影響しています。この時期は、ベンガル湾やアラビア海の海水温が上昇し、熱帯低気圧が発生しやすくなるためです。

特に、秋と春に強力なサイクロンが発生しやすいので、それぞれの特徴を紹介します。

10月~11月:ポストモンスーン期のサイクロン

インドでは、10月から11月はポストモンスーン期にあたります。この時期は、モンスーンの終わりにともなって海水温が高くなり、サイクロンの発生が活発化します。

特に、ベンガル湾でサイクロンの発生が多く、インド東部やバングラデシュが影響を受けることが多いのが現状です。

1999年のオリッサ・サイクロンは、10月末にベンガル湾で発生し、インド東部に甚大な被害をもたらしました。

4月~5月:プレモンスーン期のサイクロン

4月から5月は、インドのプレモンスーン期にあたります。この時期も海水温が上昇しやすく、サイクロンが頻繁に発生します。

ポストモンスーン期と同様に、ベンガル湾周辺でサイクロンの発生が多く、インド東海岸やスリランカが被害を受けやすい時期です。

記憶に新しい2024年5月のサイクロン・レマルや2020年5月に発生したサイクロン・アンファンは、インド東部に上陸し、家屋の倒壊や多くの住民が避難生活を余儀なくされました。

インドのサイクロンは上陸頻度が高くなっている

サイクロンで荒れた海

インドは、過去の大規模なサイクロン被害から学び、早期警報システムの導入やサイクロンシェルターの建設など、さまざまな防災対策を強化してきました。

また、国際的な協力を通じて防災インフラの整備を進め、被災者支援にも力を入れています。

特に近年では、地球規模の気候変動の影響に備えて、さらなる防災対策の強化が急務となっています。

サイクロンはインドの沿岸地域を中心に深刻な被害をもたらしますが、適切な対策で被害を最小限に抑え、住民の命と生活を守ることが可能です。

インド政府、国際機関、そして地域社会が一体となって、今後のサイクロン災害に対処していくことが、インドの安全と持続可能な発展に欠かせません。