2020年代の世界で影響力を強めているのが、アメリカ、中国、そしてインドです。
インドとアメリカについては直接的な関係性がないと考えている人もいるかもしれませんが、現在では重要なパートナーとしてお互いに協力体制を強化しています。
今回は、インドとアメリカの関係と、中国の影響について解説します。
インドとアメリカの関係はいつから始まった?
インドとアメリカの関係は、インドがイギリスから独立した1947年に正式に国交が始まりました。
それ以来、両国は様々な分野で協力関係を築いてきましたが、その関係は時代と共に変化し、特に冷戦期と21世紀以降に大きな転機を迎えています。
インドとアメリカの関係の歴史的な背景について解説します。
1947年のインド独立とアメリカの国交開始
インドは1947年8月15日にイギリスから独立しました。アメリカはこの独立をすぐに承認し、両国の間に正式な外交関係が樹立されます。
この時期のインドとアメリカは非常に友好的な関係で、独立直後で不安定なインドに対するアメリカの支援は、経済援助や技術協力など多岐にわたっていました。
冷戦期の関係(1960年代~1980年代)
1960年代から1980年代にかけて、インドはアメリカではなくソビエト連邦との友好関係を強化しました。
ソ連はインドに対して経済的、軍事的な支援を行い、インドの産業やインフラの発展に大きく寄与しています。
例えば、ソ連はインドに対して工業プラントの建設や技術援助を行い、インドの軍事装備の供給源としても重要な役割を果たしました。
このインドとソ連の友好関係はインドの経済発展には重要でしたが、アメリカとの関係性は微妙なものになりました。
インドとソ連の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:ウクライナ侵攻でも変わらぬインドとロシアの絆|2024年現在の関係を解説
1971年のインド・パキスタン戦争
1971年の第3次インド・パキスタン戦争は、バングラデシュ(当時は東パキスタン)の独立を巡る紛争で、インドとアメリカの関係に大きな影響を与えました。
この戦争でアメリカはパキスタンを支持し、軍事援助を提供したためです。
アメリカは当時、パキスタンと密接な関係を築いており、特に中国との関係改善を図るためにパキスタンを外交の橋渡し役として重視していました。
一方、インドはソ連からの支援を受け、バングラデシュの支援を行います。
1971年8月には、インドとソ連は「インド・ソビエト平和友好協力条約」を締結しました。相互防衛条項を含むこの条約は、インドがパキスタンとの戦争でソ連の支持を確実にするものです。
当然、ソ連はインドに対して軍事装備や情報を提供し、国連での外交的支援も行いました。
インドとパキスタンの関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インドとパキスタンの仲が悪い理由|両国が分裂した歴史と現在を解説
アメリカとインドの関係の冷え込みと改善
第3次インド・パキスタン戦争後、インドとアメリカの関係は冷え込みました。
アメリカがパキスタンを支持したことに対するインドの反発や、ソ連との緊密な関係が両国の距離を広げる要因となったためです。
アメリカはインドの非同盟政策やソビエト連邦との親密な関係を懸念し、インドに対する軍事援助や経済援助を控えることが多くなりました。
しかし、1980年代に入ると、インドとアメリカの関係には徐々に改善の兆しが見え始めました。
特に、1984年にインディラ・ガンディー首相の暗殺後、ラジーヴ・ガンディーが首相に就任すると、インドの外交政策にはいくつかの変化が見られます。
ラジーヴ・ガンディー首相は経済改革を進め、テクノロジー分野での国際協力を強化しようとしました。
アメリカもまた、冷戦の終結に向けた動きの中で、国際協力を強めようとしているインドとの関係を再評価するようになりました。
冷戦終結後の関係改善(1990年代)
1989年12月、アメリカとソ連のブッシュとゴルバチョフ両首脳が地中海のマルタ島で会談を行い「冷戦の終結」を宣言しました。
冷戦の二極化構造が消えてアメリカとソ連の対立が和らぐ中で、インドとアメリカの関係もまた、新たな局面を迎えます。
1991年、インドが市場経済を導入したことで、アメリカとの経済協力が大幅に強化されました。
アメリカはインドの経済改革を支持し、経済的な支援を行うとともに、多くのアメリカ企業がインド市場に進出しました。
外国直接投資(FDI)の受け入れが拡大する中で、アメリカ企業はインドの情報技術(IT)、製薬、製造業、金融など多岐にわたる分野で活動を開始します。
1990年代には、インドとアメリカの関係改善を象徴する多くの重要な首脳会談や高官の訪問が行われました。
21世紀のインドとアメリカの関係
21世紀に入ると、インドとアメリカの関係は大きく進展し、戦略的パートナーシップへと発展しました。
- テロ対策と防衛協力の強化
- 民生用核エネルギー協力合意
- インドとアメリカの戦略的パートナーシップ
上記のテーマで、現代のインドとアメリカの関係を解説します。
テロ対策と防衛協力の強化
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件は、インドとアメリカの関係に新たな展開をもたらしました。
アメリカがテロ対策を最優先課題とする中で、インドはテロの脅威に対する共通の認識を持ち、アメリカとの協力を強化します。
また同時多発テロを機に、2000年度のインドのソフトウェアの輸出で61%を占めていたアメリカ経済の後退も問題視されました。
アメリカの景気後退は、インドで現地法人の設置あるいはインド企業へのアウトソーシングが以前より増加するとの予測も起き、決してネガティブなものではありませんでした。
民生用核エネルギー協力合意(2005年)
2005年7月18日、インドとアメリカは民生用核エネルギー協力に関する画期的な合意を締結しました。
この合意により、インドは国際的な核技術へのアクセスを獲得し、原子力エネルギーの開発を促進することが可能となりました。
一方、アメリカはこの合意を通じてインドとの戦略的関係を一層深化させることを目指します。
民生用核エネルギー協力合意の主な内容は以下のとおりです。
- 原子力技術の提供
- 原子力の平和利用
- 核不拡散の遵守
インドはパキスタンと競うように核実験を行い、現在も核を保有しています。今回のインドとアメリカの合意は、改めてインドの核保有をアメリカが承認したという意味もあります。
インドとアメリカの戦略的パートナーシップ
21世紀におけるインドとアメリカの戦略的パートナーシップは、防衛やテロ対策だけでなく、経済、科学技術、エネルギー、教育など多岐にわたる分野での協力を含んでいます。
具体的には、以下のような取り組みが行われています。
- 経済協力
- 科学技術協力
経済協力
経済協力では、インドとアメリカは自由貿易や投資の促進を通じて、経済的なつながりを強化しました。
アメリカ企業のインド市場への参入が増加し、インドのIT産業や製造業はアメリカとの協力を通じて成長しています。
現在のインドには第2のシリコンバレーと呼ばれるIT都市もできていて、アメリカをはじめ先進国のIT企業がこぞってオフィスを構えています。
参照:【進出必見!】インドのバンガロールを解説!進出をおすすめする理由も紹介
科学技術協力
科学技術協力では、宇宙開発や医療技術、環境保護などの分野で共同研究プロジェクトを進めています。特に、NASAとインド宇宙研究機関(ISRO)の協力は注目されています。
2023年1月、アメリカ政府はインドの宇宙開発に関する協力を拡大すると発表しました。
アメリカとインドはNASA(米航空宇宙局)のジョンソン宇宙センターにて、インドの宇宙飛行士の訓練を実施し、NASAの商業月着陸船での研究ペイロードにインドの協力を求めることを明かします。
近年、先進国は再び月面着陸を目指して技術革新を続けていますが、アメリカはインドと協力して競争を一歩リードすることを目的にしています。
インドとアメリカにとって脅威となる中国との関係
近年、中国の経済的・軍事的台頭は、インドとアメリカにとって大きな脅威となっています。
- インドにとっての中国の脅威
- アメリカにとっての中国の脅威
インドとアメリカにとって中国が脅威になっている理由について解説します。
インドにとっての中国の脅威
インドと中国は、ヒマラヤ山脈を挟んで長い国境線を接しています。両国間では、1962年に国境紛争が起きた歴史があり、現在も国境地域では緊張が続いています。
また、インドと中国はアジアの二大新興経済大国として、経済面でも競合関係にあります。
中国は豊富な労働力と政治的手腕で高い経済成長を遂げてきました。
しかし、近年は不動産バブルが終わったり、下落する人民元を支えるためにアメリカの国債を大量に売却したりと成長に陰りが見えています。
一人っ子政策の影響で急激な少子高齢化が来ることも、外国からの投資を遠ざけている要因です。
その点、インドは人口増加が続き、豊富な労働力とIT大国として等角を表していることから、現在でも多くの国の投資を集めています。
中国はインドと直接争う姿勢は見せません。
インドと敵対するパキスタンや隣国のスリランカとの関係を強化するなど、インドの周辺国に対する影響力を強めてインドを包囲しようとしています。
インドはこうした中国の動きをよく思わず、アメリカや日本との連携を強化しています。インドと中国の関係については、以下の記事で詳しく解説しています。
参照:インドと中国の関係は?どちらに進出するのがおすすめか徹底解説!
アメリカにとっての中国の脅威
中国は毎年防衛費を増額し、アメリカの軍事的優位に明確に対抗しています。
両国が直接戦争することは現実的ではありませんが、台湾有事や中国のインド洋進出などが起きた際に第3次世界大戦になるのではと懸念されています。
また、現在の中国は世界第2位の経済大国に成長しました。そのため、アメリカとの貿易摩擦や技術覇権をめぐる競争も激化しています。
中国の一帯一路構想
アメリカにとって大きな懸念事項は、中国の一帯一路構想です。
一帯一路構想は、アジアとヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ物流ルートを作り、貿易を活発化させて経済成長につなげるのが目的です。
かつて古代の中国とヨーロッパを結んだシルクロードを現代で再現しようというのが中国の一帯一路構想です。
中国は一帯一路構想を推進することで、世界各地で経済的・政治的影響力を拡大しようと考えています。
現在世界のリーダーとなっているアメリカにとって、中国の一帯一路構想は容認できるものではありません。
インドに進出するアメリカ企業の目的
アメリカ企業がインドに進出する主な目的を紹介します。
- 巨大な消費市場の獲得
- 豊富な労働力の活用
- コスト削減
アメリカにとってインド市場がなぜ魅力的なのか、詳しく解説します。
巨大な消費市場の獲得
インドは世界第1位の人口を誇り、中間所得層の拡大によって購買力が向上しています。アメリカ企業にとって、このような巨大な消費市場は魅力的な投資先です。
例えば、Amazonやウォルマートといった小売大手は、インドの電子商取引市場への参入を積極的に進めています。
実際、ウォルマートは2018年にインドのネット販売企業、フリップカートの株77%に160億ドル(当時のレートで約1.8兆円)を支払い市場に参入しました。
豊富な労働力の活用
インドは、特にIT分野で優秀な人材を多数輩出していることでも注目されています。
アメリカ企業はインドの豊富で高度なIT人材を活用するために、現地法人の設立や研究開発拠点の開設に積極的です。
具体例として、GoogleやMicrosoftなどの大手IT企業はインドのバンガロールにオフィスを構え、IT人材を積極的に活用してインド向けのサービス開発を行っています。
IT人材不足に悩む国にとってインドのIT人材は貴重で、日本でもインドのIT人材を雇用したり、現地法人を設立して業務を依頼したりしています。
コスト削減
インドはアメリカと比較して人件費や不動産価格が低く、事業運営コストを抑制できます。そのため、アメリカ企業はコスト削減を目的として、インドに生産拠点や業務委託契約を持ちかけています。
例えば、世界最大の複合会社として有名なゼネラル・エレクトリックは、インドに複数の工場を持ち、現地の安価な労働力を活用して事業展開していることが話題になりました。
インド政府は外国直接投資(FDI)を積極的に呼び込むために、規制緩和や税制優遇措置などを実施しています。
アメリカ企業は、こうした投資環境の改善を追い風に、インド市場への参入を加速させています。今後もインドとアメリカの経済関係は深化し、両国企業の協力はより一層進むでしょう。
まとめ:インドとアメリカの関係強化は世界平和にとっても重要になっている
インドとアメリカの関係強化は、中国の牽制だけではなく技術革新や経済成長の意味合いでも重要です。
インドとソビエト連邦が親密だった時期は希薄な関係でしたが、今後は宇宙開発などの分野でも連携していくことが分かっています。
また、インドの豊富で低コストな労働力はアメリカ企業にとって魅力です。今後もインドはアメリカ企業の誘致を続け、最先端のITサービスの開発などを進めていくでしょう。